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第5話プロローグPart2

 所変わって、ここはカプリシューズのアジト。建物のどこにいても常に薄暗いこの施設で、周りの景色に反して殊更上機嫌な青年が一人。

「今日の報告は素晴らしかった。シャグランもラージュも、よく働いてくれるようになりましたね。少し心配していたのですが、杞憂だったようです」

 にこりと微笑んでデザストルはそう告げる。このまま彼の機嫌を損ねないようにしなければと、テーブルの上にお茶を置いたモーヴェは、加勢するように頷いた。

「デザストル様のためですもの。当然ですわ。それよりデザストル様、今回も任務はこのあたしにお任せしてくださるのですよね?」

 前回の戦いで、モーヴェは『新たなプリキュアの誕生を阻止する』という明らかな成果を出した。その事がデザストルのお眼鏡にかなったようで、彼女はここ暫く様々な仕事を任されていたのである。当然、次の任務だって、使えないソンブルではなく、自分で決まりの筈。そう思い、意気揚々と尋ねたモーヴェだったが、デザストルは表情を崩さぬまま、彼女が一切予期しなかった答えを口にした。

「あぁ、その事ですが、モーヴェ。今度はソンブルくんと二人で行ってきてくれませんか?」
「な、なんですって!? 」

 驚いたモーヴェの後ろで、自動ドアの開く簡素な音がして、嘲笑うような声が投げかけられる。

「よぉ、久しぶりだな、ババァ」

 以前モーヴェが嫌がった呼称を際立たせて呼んでくる辺り、性根の腐りきった本当にどうしようもない子供だ。そうは感じたものの、モーヴェにはデザストルの信頼という武器がある。子供に構ってる暇は無いのよと言わんばかりに、その少年──ソンブルに向かって嗤い返した。

「あら、左遷されたって言うのに随分ご機嫌じゃない。自分の無能さをもう忘れたのかしら?」

 流石の彼でも、こう言われてしまえば悔しがるだろう。モーヴェは彼が舌打ちをして顔を顰める様子を想像する。だが、ソンブルはいまいち理解出来ていないような不思議そうな表情で首を傾げたあと、懲りずに嘲笑を続けるだけだった。

「無能?オレが?……はっ、よく言えたぜ。今回の任務は、オレがお前の指揮を任されてるってのにな」
「はぁ!? デザストル様、どういうこと!?」

 自分が指揮するのではなく、ソンブルが? 一体何の間違いだと必死の形相で振り返ったモーヴェに向かって、デザストルはそっと窘めるように言い聞かせる。

「言葉の通りですよ、モーヴェ。私は慈悲深いので、ソンブルくんにも昇格のチャンスを与えねばね。少しばかり『生まれ変わらせて』あげたんですよ」

 先程までとは違う、妖しい笑みがデザストルの顔に浮かぶ。胸元から取り出された、赤く輝く宝石を目にしたモーヴェは、何かに気がついたかのようにハッと目を見開いた。

「そのペンデュラム……まさか、またそれで洗脳を……?」

 ソンブルに対して、デザストルが強い負荷をかけていたのは知っていた。そして、いくら慕っている人物のすることであれ、モーヴェはその『魔法』をひどく嫌悪していた。

「洗脳?何言ってんだモーヴェ。デザストル様はオレに『力』をくださっただけだぜ」
「あんた……」

 もう、彼には何を言っても無駄だ。頭では分かっていても、モーヴェは嬉しそうに言葉を紡ぐ彼を、異常だと思わずにはいられなかった。