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第2話Part3

「でも、学校にいる間は、極力カプリシューズには出会いたくないわね。レザンの話を聞くに、カプリシューズは、私たちを捕らえるためなら、手段を選ばない気がする」

 頭を下げてスカートに視線を落とし、ゆららがぽつりと呟く。あの、気に食わない銀色の鋭い目を思い出して、思わず強く唇を噛んだ。年は自分とさほど変わらない見た目なのに、何故彼はあれ程までに非道な事が出来るのか、ゆららには未だ分からなかった。
 押し黙ってしまったゆららの言葉を引き継ぐように、今度はレザンは重々しく口を開く。彼女が誰の事を考えているのか、頭では分かっていたが、口には出せなかった。

「そう、彼等はいつだって強引で、目的達成の為なら、どんな犠牲を払ってでもやり遂げる。そういう奴等だ。……学校の皆に危害を及ぼすわけにはいかない」
「それって、よっちゃんやゆうちゃん達も、危険な目に遭うかもしれないってこと……?」

 不意に聞こえてきた不安げな声に、レザンは一瞬、しまったと口を噤んだ。よっちゃん・ゆうちゃんと言うのは、まつりが特に仲良くしているクラスメイト達の名前だった。
 また余計な事を言ってしまったのかもしれない。何を言うべきで、何を言ってはならないのか、彼の中で行われる取捨選択は、非常に難しい。
 けれど、プリキュアとして戦う覚悟を決めたのならば、これはいずれ知らなければならない事だ。レザンはつとめて平静を装うと、ごくごく自然な笑顔を向けた。

「うん、最悪ね。でも大丈夫。学校の仲間の安全は、僕が保証する。君たちが戦っている間、学校の皆は僕が守るよ。約束する」

 手を伸ばして、彼女の表情を和らげようと、優しくいたずらに頬をつねる。

「だから、そんな悲しそうな顔はしないこと。ね、笑って?」
「う、うん。へへ、ありがとう……」

 ようやくいつもの明るいまつりに戻ったと、ゆららは横で微笑む。しかし、第三者としてこの二人を見ていく中で、ゆららには新たな違和感も生まれていた。

「ここ数日見てて思ったんだけど、やっぱりあなた達二人って……」
「え? 何?」

 しかし、ゆららの呟きに、二人は揃ってきょとんとした表情を浮かべた。まつりはともかく、レザンまで不思議そうな顔でこちらを見ているのならば、この違和感は気の所為と言うことなのだろうか?
 深く考えるのはやめて、弁当の包みを持ってゆららは立ち上がった。

「いえ、何でもないわ。そろそろ昼休みが終わるから、教室に戻りましょう」
「そうだね、帰ろ帰ろ」

 続けてまつりが立ち上がると、レザンは意味ありげに脇にある鞄を見つめると、座ったまま二人に向かって言った。

「あ、ちょっと先行っててくれるかな。僕、少しだけやることがあるんだ」
「そうなの? じゃあ先行ってるね!」
「授業に遅れないようにね!」
「はは、分かってる。じゃあ、また後で」

 笑顔で手を振って二人を見送ったレザンは、屋上の扉が閉まると同時に顔から作り笑いを消した。
 屋上にはもう、彼以外誰一人として残ってはいなかった。レザンは、目を細めてもう一度自身の鞄を一瞥する。少し開いたその中から、ふわふわとした赤い何かが見えていた。