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第2話Part20

 レザンがりんねの近くに寄り、それとなくポムから視線を逸らさせる。

「わざわざ駆けつけてきてくれてありがとう、碧月さん」
「怪我がないなら良かった。ううん、たまたま近くにいたから、心配になっただけ。……ふふ、そのぬいぐるみちゃんも、ほつれたりはしてない見たいね」
「ぽっ……」

 しかしりんねは、レザンの言葉に笑顔で頷くと、真っ先にゆららの前に抱かれているポムに手を伸ばした。条件反射で「ぬいぐるみじゃないポム!」と叫ぼうとしたポムは、レザン達からの厳しい視線を受け、すんでのところで口を噤んだ。
 それでも、ポムの小さな声は聞こえてしまったかもしれない。まつりは、ポムの声をかき消すように大袈裟に笑うと、レザンの背中をばしばしと叩いた。

「あ、えと、そうなの! 藍の大切な物だから、壊れなくて良かった~!」
「えっ僕!?」

 不服にもぬいぐるみコレクターの称号を授けられたレザンだったが、りんねはさして気にしていないようだった。「そうなの?」と微笑むと「話が合いそう」と嬉しそうに両手を合わせる。

「可愛い趣味を持ってるのね、和泉くん。じゃあ、私は戻るね。また明日」
「ま、また明日~!」

 去っていくりんねに向かって手を振るまつり。レザンは頬をふくらませると彼女を睨みつけた。

「ちょっとまつり、僕がぬいぐるみ集めてるって誤解されてなかった!?」

 レザンは中性的な顔立ちの為か、ただでさえ昔から可愛いと言われる事が多かった。そりゃまあ僕はとても可愛いけれど、それは当然の事だけれど、それでも、王子としての威厳を保つために普段はなるべく凛々しく在りたいと願っている。それなのに、こんな事をされてはクラスメイトからの評価がどうなるか……!
 しかし、必死でそう捲したてるレザンを、まつりはこの上なく軽くあしらった。

「まーいいじゃんいいじゃん。バレない事が最優先だし」
「いや、それはそうだけど、もっと他の言い訳とか思い付かなかったわけ?」

 すっかり日常に戻り、やいのやいのと言い合う二人。そのテンポの良さに、あすなは思わず吹き出した。

「ぷっ、あはははは!」
「あすな? どうしたの?」
「あすな、笑ってるポム!」

 ゆららとポムの指摘に、あすなは慌てて口元を抑えようとするが、笑いが止まることは無かった。

「すみません、だって、まつり先輩とお兄さんの会話がおかしくて……!」
「もう、笑いすぎだよ~……ふふふふ」

 あすなに誘われるように、まつりも小刻みに震えだす。二人の様子を見たゆららは、呆れたように肩を竦めてポムに語りかけた。

「まつりまで……もう、襲撃があった後だって言うのに、良くそんなに笑えるわね」
「でも、とってもいいことポム! 笑えるのは楽しい証拠ポム~!」

 ポムの声が、夕焼けに染まった中庭に響き渡る。しかし今度は、彼女が声を発した事について叱る者は一人もいなかった。