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降り始めた雨と、世界の音と。

スーパーで買い物をして外に出たら、雨が降り始めたところだった。

夏の夕立のような、降り始めのさーーーっという音。まだ乾いている地面に雨粒が当たるぱらぱらという音。湿った香り。

雨の降り始めに立ち会ったのは、久しぶりだ。

懐かしい、音と香り。

子供の頃、急に降って来た雨に母からの指示で慌てて庭の洗濯物を取り込んだことや、部活中に土砂降りに遭ってみんなで体育館に駆け込んだこと。好きな人がジャージの上着を貸してくれてそれを頭からばさっとかぶって…なんて少女漫画みたいな思い出はあるようなないような…ともかくいろんな思い出ぶわっと浮かんできて、

無意識に、大きく息を、吸っていた。スーパーの入り口で。

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今のマンションに越して来たのは2年半前。その前もマンションに2年ほど住んでいた。ゴミは24時間出せるし、防音なのでとても静かだし、住み心地も良いので気に入っているのだけれど、そういえば、雨の音は聞こえない。だから時々、マンションの入り口まで行って初めて、雨が降っていたことに気づくこともある。会社にいるときも同じだ。雨の音は聞こえないから、外に出る前に窓から外を見下ろして、道ゆく人たちが傘をさしているかどうかを確かめる。外にいる時ぐらいだ、雨の音を聞くのは。

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先日、和歌山の実家に帰った時に思ったことは、世界はなんて賑やかななのだろうということだった。

家の周りにはなにもなく、車も1日に何台も通らない。蛍が舞い、流れ星が見えるほどに、静かな場所だ。

それでも昼はウグイスや様々な鳥が鳴く。夏になれば蝉の合唱。雨が降り始めたら最初の1滴からわかる。ぽつ、ぽつ、ぽつ、ポツポツポツポツ、ざーーーー。しとしとと降る雨の音も、情緒があって好き。

夜、布団に入ると、実にたくさんの音に包まれる。風に揺らぐ草木の音。名前もわからない様々な虫の鳴き声。その日は聞こえなかったけれど、両親によると時々ふくろうの声も聞こえるという。

眠らない街・東京では、聞こえない音たち。

そういう音たちが愛おしいと思えるぐらいには、わたしはいつの間にか大人になり、東京の人になったのかもしれない。

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わたしの名前の「菜生」の由来は、”菜の花が生まれる”。四季の豊かさを感じて欲しいという、両親の想いからつけられた名前。東京の生活でも、世界の音に丁寧に耳をすませ、五感で四季や自然を感じながら生きていきたいなあと、雨に打たれながらの帰り道、ふと、思った。

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