脳が作り出したシュミレーション?

人間の脳が物語の製造機になったのは、日常の活動に使うリソースを節約するため。

例えば、原始時代の祖先達が虎に襲われたような場面では、本当に必要なのは、猛獣の動きに関する判断材料のみだった。

それ以外のいつものサバンナの光景や遠くに見える鳥の動きといったデータは無視して、虎の挙動だけを処理しなければ、素早く反応できないだろう。

日常生活でも話は変わらず、毎朝の出勤時に、ドアノブを握った感触や扉が開いていく情景などの感覚情報をすべて処理していたら、脳のキャパシティーがいくらあっても足らない。

何度も入力されたデータは、いつもと同じだろうと推測して、過去の情報を使いまわした方が、脳進化できたわけである。

さらに、近年の神経科学の進展のおかげで、脳が物語を作り上げるメカニズムも分かってきた。

例えば、自分が出勤のために玄関のドアノブに手をかけたとする。

この瞬間、脳の島皮質という高次領域が、「扉の向こうにはいつもの庭があり、普段通りの日常が続くだろう」や、「ドアノブは普段通りに開き、私は駅に向かうだろう」などの物語を無数に作り出し、このデータをいったん目の目の間に位置する視床という場所へ転送する。

続いて自分が実際にドアを開くと、眼や耳から入った外界の情報が視床に送られ、ここで物語データとの比較が行われる。

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