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失業給付の改定で、転職市場は活況になるのか

「成長分野への労働移動の円滑化」のために、自己都合退職の給付制限を改定すると、岸田総理が表明しています。

果たして、失業給付の改定で転職者数が増加し、成長分野に労働者が増えるのでしょうか。
私は懐疑的です。上記のニュース記事にもあるとおり、転職希望者は在職中に転職サイトに登録しています。多くの人は失業期間を設けずに転職しているのです。なぜなら、あえて失業期間を作る理由がないからです。

理由はさまざまですが、失業給付という観点から語れば、前職の給与の満額を支給されるわけではないこと(45~80%)。多くの人は、失業すると厚生年金から国民年金に切り替わり、失業期間の住民税などは自分で払う必要があることなど、手間がかかります。

であれば、失業期間を作らずに転職したほうが、メリットが大きいといえます。

転職者数は直近20年間、ほとんど変わっていない

さて、そもそも論として、転職者数は増えているのでしょうか。
厚生労働省がまとめた「労働経済白書」によると、転職者数の推移は以下のとおりです。

労働経済白書(2022年9月)

このグラフを見ると、2つの山が見えます。一つはリーマンショック前と、もう一つはコロナショック前です。おおむね転職者の最大数は350万人程度でしょう。日本の労働人口がざっくり7000万人なので、労働人口の5%が転職者です(最大で)。

もう一つ、dodaの転職求人倍率をみると、2019年2月比較で2021年・2022年はやや伸びているものの、上下を繰り返しています(濃い青色のグラフ)。それに対して求人数は右肩上がり(薄い水色のグラフ)。

doda転職求人倍率(2023年1月)

グラフを見ると、現在の人手不足の状況がよくわかります。
グラフの状況に合わせるように、完全失業率も低下しています。総務省の調べるによると、2023年1月の完全失業率は2.4%と、完全失業率が低下し続けているのがわかるでしょう。

総務省調査/グラフはNHK

以上の情報を踏まえると、転職者数は年間350万人前後、企業側の雇用需要で完全失業率は低下している、というところでしょうか。
ただ、多少の上下はありながらも、転職者数は変わっていないのが実情です。私が失業給付の改定をしても、転職者数が増えないと考えている理由がおわかりだと思います。

日本の(正規雇用)労働者は、かなり保守的

また、BIZREACHの転職コラムで面白い記事を見つけました。

簡単にまとめると、「転職”希望者”は増えているが、実際の”転職者”は減少している」とのこと。
総務省の「労働力調査」に基づいており、ここ6年で転職希望者数は80万人ほど増加しているのに対し(2016年との比較)、実際の転職者数は40万人ほど減少しています。
2020年・2021年はコロナが原因と言えなくもありませんが、dodaのグラフを考えると求人数が増えている状況で、転職者数が増えないというのはおかしな話です。

現状ではさまざまな理由が考えられますが、コロナで社会情勢が不安→転職はやめよう、という心理が働いたのではないでしょうか。
正社員の転職希望者数が増加しているのが、不安心理による転職の差し控えの理由の一つです。日本の正社員は世界で類を見ないほど、法律で保護されています。彼ら・彼女らは法律で厳しく雇用が守られているので、わざわざ不利な状況下で自ら転職する理由はありません。現在のように、求人倍率が高い時期に転職したほうが、有利な条件で転職できるからです。

dodaの転職理由ランキングでも、年々「業界・会社の先行きが不安」が下がり、2021年に至っては「給与が低い・昇給が見込めない」がトップに。飲食や旅行、宿泊業界など一部の業界はコロナで大打撃を受けましたが、他の業界では需要が回復したためでしょう。

よりインパクトのある施策が求められる

以上を踏まえると、本当に労働移動を起こしたいのであれば、「解雇要件」を緩和するほうが効果的です。
もちろん、解雇要件の緩和はパンドラの箱です。労働市場に大きな混乱をもたらします。しかし、本気で成長市場への労働移動を考えるのであれば、解雇要件を緩和し、労働力の流動性を上げるべきでははないでしょうか。

今回の「失業給付」の改定は労働力の流動性にも気を配っていますよ、というアピールにすぎない気がします。
解雇要件の緩和が正しい方法かは別として、もう少しインパクトのある施策を実施しないと効果が見込めないでしょう。

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