最後の決闘裁判

中世フランスでの史実を基にした話。騎士であるジャン=ド=カルージュが、自身の妻であるマルグリットを旧友である従騎士のジャック=ル=グリに強姦され提訴する。その裁決として、当時の法に則りジャンはジャックに決闘を申し込む。決闘に勝てば勝訴、負ければ敗訴というものである。

物語は3部構成になっており、ジャン視点での事件事実、ジャック視点での事件事実、マルグリット視点での事件事実という風に進む。

面白いと感じたのは、それぞれの章の中で共通する 場面はあったものの、そのシーン内で細かな差異があったことだ。
例えば、ジャックがマルグリットに言い寄るシーンや強姦に及ぶシーンでは、ジャック視点ではマルグリットがジャックを挑発したり、性交に同意しているともとれる描き方がされていた。一方で、マルグリット視点では、ジャックに対して好意的な様に装っているがそれは表面上の演技であったり、襲われる際には本気で抵抗しているように描かれている。
また、マルグリットがジャンに事件のことを伝えるシーンでは、ジャン視点だと、マルグリットが怯えながら事件のことをジャンに伝え、ジャックに対する復讐をして欲しいと乞い、ジャンはそんなマルグリットを優しく慰める。一方で、マルグリット視点だと、怯えながらも強く凛として事実を伝えるマグリットに対して、ジャンは怒りを露わにして掴みかかり、マルグリットの意見を聞かずにジャックへの復讐を誓う。
これらの様に、それぞれの視点での差異があるということは、人が自らの信じたいように物事を信じ、記憶すらもその様に塗り替えてしまうという真実を示していると思われる。それぞれの章の人物像もやはり差異があり、主観的な自分と客観的な自分、仮面を被った他人とその人の真の姿が全く異なるという誰もが共感する真実が描かれている。

そして、描き方として疑問に思った点が、決闘後のシーンである。それまで作中では、戦闘シーンなどの不穏なシーンで雪が降るという演出がされていた。物語の構成手段として、冬は展開の最も悪い場面を示唆する時期として選ばれる季節である。そんな冬のメタファーである降雪シーンであるが、これが決闘後ジャンとマルグリットが街を凱旋するシーンでも続いている。そして、マルグリットの曇った表情のまま、シーンは終わる。その後、マルグリットが自分の子供を庭で見守るシーンへと変わるが、この時は野花が咲き、空も晴れている。すぐ後にジャンが決闘の数年後戦死したことが説明される。
ここから、マルグリットにとっての事態の改善・状況の好転は、決闘に勝利した時ではなくジャンが死に、妻(女性)という立場から解放された時ではないのかと感じた。

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