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【シリアルアントレプレナーに訊く】 M&Aによるエグジットとその先にあるもの。

ハードシングスを乗り越えた経営者をお招きし、オープンコミュニケーションでカジュアルな座談会を行うEight Roadsの「Fireside Chatシリーズ」。

今回、ゲストにお呼びしたのはSDPジャパンの永用万人氏です。鹿児島でDPEプリントに関する会社を起業し、その後カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)に売却。現在はヘルスケア業界に革命を起こすと言われているSDPジャパンの代表を務めています。聞き手は、Eight Roads Ventures Japanでパートナーを務める香本慎一郎です。

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〔プロフィール〕

SDPジャパン株式会社 代表取締役社長
永用万人(ながよう・かずひこ)氏

鹿児島大学卒業後、建設会社での勤務を経て株式会社WDI&JEMへ入社。外食業界で店舗支配人や取締役を歴任。その後株式会社ボイスメールに入社し、営業職を経て取締役に就任。その後独立し、スペースリンク株式会社、しまうまプリントシステム株式会社、データCAPS株式会社を創業。現在はSDPジャパン代表取締役社長、きりんカルテシステム取締役会長、データ・リファイナリー株式会社代表取締役。

モデレーター
Eight Roads Ventures Japan パートナー
香本慎一郎

学生時代に輸入雑貨を販売するe-Commerce事業を起業し、卒業と同時に売却。新卒で三井物産に入社し、IT・生活産業・ヘルスケア領域において新規事業創出、M&A、会社運営に携わる。アメリカ・ベトナム・シンガポールに計9年間駐在。東京都立大学卒業。INSEADビジネススクール Management Acceleration Programme修了。


連続起業に必要な思考と戦略とは

── まず、永用さんの現在に至るまでの道のりを伺えますでしょうか。

永用 僕は鹿児島に産まれて地元の大学に進学し、学生時代は内燃機関というエンジン設計を専攻していました。同級生が自動車メーカーや重工関連のメーカーに就職するのを横目に、僕は外食産業に就職したんです。その後、会計ソフトの会社や出資先の伊藤忠商事との合弁会社などを経験。32歳でファミリーマートに設置されるマルチメディア端末「Famiポート」のシステム開発・販売を手掛ける会社を立ち上げ、全国7,000店舗に設置されるまでに成長させました。ところがVCとの契約関係で期限がきてその会社を売却。

次に立ち上げたのが、ネットプリント専門店のしまうまプリントシステムです。私がビジネスを行うときに決めているのは、ダントツでNo.1になることです。しまうまプリントシステムも、ありとあらゆる工夫をしてNo.1になりました。そこに目をつけたのが、CCCの増田(宗昭)さんでした。それで、しまうまプリントシステムをCCCに売却したのです。

いまは医療業界で、手術専門の病院を多店舗展開すべく奔走しています。これまで30社ほどの会社を立ち上げ、そのうち10社近くを売却してきました。

── 会社を売却したら手元にキャッシュが入ってきますし、余生を過ごそうという気持ちになりませんか? 繰り返し起業する原動力はどこにあるのでしょうか。

永用 起業って、前半は大体うまくいかないのでつらいんですよね。正直いつも「なんで始めたんだろう」と思います(笑)。だけど、その先にある達成感がたまらないわけです。自分で考えてビジネスを興し、自分で決めて自分で責任を持つ。社長って幸せな仕事だと思います。

── 永用さんは連続起業にどのような意義を見出していらっしゃるんですか。

永用 大きく2つの意味があると思っています。1つは、人とのつながりです。僕はどの業界でも素人だったので、業務知識をサポートしてくれる人との出会いが事業のスケールに直結したわけです。

そして2つ目は、僕はよそ者なのでその業界に長くいる人とは違う視点でアイデアを出せる。こうすれば便利になる、トップシェアを取れる、課題を解決できるという視点で意見を出してきたため、イノベーションを起こしやすかったのだと思います。

── 業界知識がないところに飛び込んで、事業をスケールさせるために最も重要なポイントは何だったのでしょう。

永用 僕も30年くらい経営していますけど、いちばん大事なのは「失敗しない」ことです。かつて上杉鷹山公は仕事の価値について「働き一両、考え五両、見切り千両」なんて言いました。要は、ダメな事業を見切ることが重要なんですね。

これまで30社ほど会社を立ち上げましたが、大きなやけどをせず何とか生き延びてこられたのは早く逃げることができたからです。

30代でマルチメディア端末の事業をやっていた頃、何人か似たようなビジネスで自己破産した仲間がいました。金融機関から資金調達したはいいけれど、結局返済できずに最後まで借入金を抱え込んでしまった。

スケールできないと思ったら、逃げる、たたむ。それが本当のビジネスのコツだと思うんですね。日本人って、逃げ方が下手だと思うんですよ。金融機関のみならず親兄弟からもお金を借りて、最後にパンクするまでやり続けてしまう。親兄弟にお金を借りるまでやってはダメ。「どこまでそのビジネスを続けるのか」の線引きは必要だと思います。

株式会社は1000年続く。 次の世代に事業をバトンタッチしたい

── 逆に、しまうまプリントシステムがスケールした要因は何だったのでしょう。

永用 もともと写真業界って3000億円くらいの市場規模だったのですが、その頃業界最大手がL版を1枚42円くらいで売っていた。そこを僕らは1枚5円で売ることにしたんです。すると価格が8分の1くらいになるわけですから、価格破壊が起こりますよね。

リプレースマーケットだったのでしまうまプリントシステム自体はスケールしましたけど、同時に各地の写真館と呼ばれるお店をたぶん2000店舗くらい潰してしまったのではないかと思います。マーケットも8分も1くらいにシュリンクしたのではないでしょうか。

── どうすればこれだけ買収したいと思えるビジネスをつくれるのでしょうか。

永用 当たり前のことにちゃんと取り組むことです。利益を出す、成長させる、会計に透明性がある、隠れ債務がない。これが「魅力的な会社」です。それから、赤字でも成長しているとか、マイナス要因を持っていても何かをプラスすればブースターが発動する、そういう会社は魅力的ですよね。

かつて売却したある会社の現役員と話をすると、「永用さんからあの会社を買って良かった、グループ全体で事業の牽引役になってくれている」と言うんです。

売却したときに在籍していた社員もみんないい仕事をしていますので、これは非常に嬉しいですよね。買ってくれた相手に後々まで「ありがとう」と言われる会社であることがいちばん大事じゃないかなと思います。

── 起業するときにこうした出口戦略まである程度見据えているものですか?

永用 高らかに「計画しています!」と言いたいところですが……実のところ全く考えていません(苦笑)。

起業するときに思うのは「業界のチャンピオンになりたい」、ただそれだけです。100億円のマーケットでも、1兆円のマーケットでも業界1位にする。そのためには外部資本が必要になります。

投資家にいつも話すのは「IPOでもM&Aでも構いません。それは株主の総意で決めてください。僕はこの会社を業界のチャンピオンにして、次の世代にバトンタッチします」ということです。

人間の寿命はせいぜい100年ですけど、株式会社って1000年続く可能性があります。その永続性を考えたとき、孫の代まで続けてもらえるような事業を創ることが大事だと思うんですよね。

僕は0→10にするのが得意です。だけど、10➝100にするのはそんなに得意じゃない。だったら、10➝100にするのが得意な人に会社をバトンタッチして永続的な会社にしてほしいと思っています。

手放した会社の社員が幸せであるために

── なぜ「業界のチャンピオン」にしようと思うんですか?

永用 チャンピオン以外は生き残れないんですよ。どの業界も勃興期には無数の会社が参入してくるのですが、最終的に生き残って利益を出せるのは1位の会社だけなんです。2位の会社はとんとんです。歴史を見るとそうなっている。

そう考えたとき、社員がハッピーに暮らせるようになるためには業界のチャンピオンにならなきゃダメだろうなぁと思いました。

業界チャンピオンになるには、だいたい10年くらいが必要です。5年くらいでだいたい確固たる地位が見えてきて、10年でものすごい儲かるようになる。業界チャンピオンって、最後はものすごい利益率を出しますからね。

── 売却先の事業会社からしても、そのマーケットでトップシェアを持つ永用さんの会社を買うことで、一気に業界シェアを取れるということですよね。

永用 そうなんですよ。

── ちなみにエグジットするのはどういうタイミングが多いんですか?

永用 基本的に自分から「この会社を売りたいです!」と手を上げたことはなくて、すべて事業会社側から「買いたいです」とお声をかけていただくケースですね。M&Aをするために会社を経営している感覚はなくて、業界チャンピオンを目指して走っていたらお声がかかったという順番かなと思います。

心の中ではあまり目立ちたくない、IPOしたくないっていう気持ちもありますし。僕は過去にIPOした仲間でダメになった人を何人か知っているんですけど、彼らが口をそろえて言うんですよ。「お金があるなら、IPOはしない方がいい」って。IPOってそれくらいプレッシャーが大きいんですよ。IPOを経験した仲間の一人は、粉飾騒動を起こしてしまったくらいですから。

── 事業を手放すときは、ちゅうちょしないものですか?

永用 自分の会社って子どもみたいなもんなんですよ。イクジットするっていうのは、子どもが独立してしまうようなものです。ちょっと昭和的な言い方をすると「娘を嫁に出す」ような感覚。

しまうまプリントシステムも、創業の頃から一緒にやってきた副社長がいまは社長になって業界でのポジションも上がって、キャピタルゲインも増えて彼の年収も増えて……という話を聞くと本当に嬉しいですよね。

結婚していった子どもが里帰りしてくれて、近況を教えてくれるような喜びがあります。

〔Q&Aセッション〕

Q1. M&Aを行うときに外してはいけないポイントってありますか?永用 FA(ファイナンシャルアドバイザー)を立てることです。M&A先と直接交渉せずに、FAをしっかり立てる方が、互いの本音を言いやすくスムーズに交渉が進みます。良いFAの方が入ってくだされば、成功する確率も一層高まります。

もとの会社をバラバラにしない、その会社の名前を残して一定期間成長を促す、社員をリストラしないといったポイントも非常に重要です。単に資産が多くて、キャッシュ目当てのM&Aだと会社がバラバラにされてしまうことがあるので、それは傍から見ていて悲しいなと思っていますね。

ちなみに値付けも欲張らない方がいいですよ。FAの方が入ってくだされば、価格設定も適切に着地していただけます。

Q2. どうして値付けを欲張らない方がいいんでしょう? 数百億円の金額を提示されたら、心が揺らいでしまいそうです。証券会社が示す高いvaluationでIPOする選択肢もあるなかで、敢えて欲張らない値付けでM&Aを選択する理由を伝えたいです。

永用 僕の根っこに「大金持ちは不幸になる」っていう思いがあるんですよ。大金持ちを何人か見てきたんですけど、全然幸せそうじゃないんですよ、彼ら。そのクラスになると、ブラッと居酒屋にも入れない。

いちばん幸せなのは、小金持ちか中金持ちですね。昔ビル・ゲイツが言ってたんですけど、「日当たりのいい家があって、借金がなくて、レストランに行って値段を気にせず注文できるくらい、それがいちばん幸せだ」って。まあ、ビル・ゲイツはそれ以上のお金があると思いますけど(苦笑)、僕も同じように思います。

Q3. 業界のチャンピオンになるために、どこで勝負するのが良いでしょうか。

永用 その会社が持っている「武器」で判断するようにしています。武器というのは、自分の持っているアイデアや競合との差別化ポイント、仲間のスキルといった部分ですね。

いちばん大切にしているのはアイデアです。業界全体をひっくり返すようなアイデアなのか、カテゴリーキラーになるようなアイデアなのか。自分の持っている武器で判断すべきでしょうね。

僕は3C(Customer, Competitor, Company)を大事にしているんですよ。これは資本市場で商売する限り普遍の考え方です。とくにCompetitorですよね、競合というより先行者と考えた方がいいかもしれません。先行者に勝てるアイデアか、一定以上の市場規模があるか、もしくは、その市場が伸びているか。そこは見極めなければならないと思います。


■ Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
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