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Eight Roads Special Seminar    -バブソン大学准教授 山川恭弘氏

Eight Roadsが支援するスタートアップの経営者たちが集い、定期開催しているスピーカーセッション。12月某日に開催した回では、バブソン大学准教授の山川恭弘(やすひろ)氏をお招きして「起業家的思考と行動法則のすすめ」をテーマに、お話いただきました。

山川氏は10月16日に書籍『全米ナンバーワンビジネススクールで教える起業家の思考と実践術: あなたも世界を変える起業家になる』(東洋経済新報社)を上梓。バブソン大学で起業道や失敗学について教鞭をとっています。山川氏がグローバルで見てきた様々なケースを通じて、日本の起業家へのエールを伺いました。

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山川恭弘氏 プロフィール

バブソン大学准教授 兼 CIC Japanプレジデント兼ベンチャーカフェ東京代表理事

慶応義塾大学法学部卒。カリフォルニア州クレアモントのピーター・ドラッカー経営大学院にて経営学修士課程 (MBA) 修了。テキサス州立大学ダラス校にて国際経営学博士号 (PhD) 取得。2009年度より現職。専門領域はアントレプレナーシップ。学部生、MBA、エグゼキュティブ向けに起業学、経営戦略、及び国際ビジネスの分野で教鞭をとる。同時に、数々の起業コンサルにも従事し、自らもベンチャーのアドバイザリー・ボードを務める。10月16日に『全米ナンバーワンビジネススクールで教える起業家の思考と実践術: あなたも世界を変える起業家になる』(東洋経済新報社)を上梓。


■豊田章男氏も学んだバブソン大学で教鞭をとる“ローンチ請負人”

バブソン大学で起業道や失敗学を教える山川氏は、起業と失敗のスペシャリストとして、メソッドを教えたり、失敗事例をリサーチしたり、失敗の寛容度を改善したりもしている。自身もゼロからビジネスを立ち上げ、サービスをローンチするのが大好きだという。

「学生に教えるときは、理論と実践のハイブリッド型で教えることが大切です。私自身も、日本では『ベンチャーカフェ東京』でイノベーションの創出コミュニティに直接携わったり、『C I C東京』のシェアオフィスで事業を生みだすサポートをしたりしています」(山川氏)

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山川氏が教鞭をとるバブソン大学はアメリカのボストンにある起業家養成カレッジだ。卒業生にはトヨタの豊田章男会長やイオンの岡田元也社長らが名を連ね、卒業生の5人に1人が起業する。起業分野のMBAで27年連続全米1位を獲得している。授業でも、年間を通じて約200時間の、ビジネス立ち上げに関する実践的かつ本格的なカリキュラムを経験する。

「授業では実際にビジネスを立ち上げて起業します。在校生の間には、何か新しいことをやってやろうという、よい意味での緊張感があり、世界を変える起業家になろうというカルチャーがあります」(山川氏)

なぜバブソン大学は、これほど起業家を次々と輩出できるのか。その解について山川氏は、バブソン大学がキャンパス近くで掲げる広告コピーを上げた。

“IF YOU COLUD SOLVE ONE WORLD PROBLEM WHAT WOULD IT BE?”
世界中の問題からたった一つ解決できるとすれば、君は何を選ぶ?

世界中のあらゆる問題の中から、自分の解決する問題を考察することを、すべての出発点としているのだという。

「まずは自分がとことん追求したい問題を設定すること。つまり、プロブレムドリブンであることを大切にしています」(山川氏)

それに加えて「すべての人に起業家精神が宿っている」という教育方針を掲げている。在校生一人ひとりに眠る起業家精神を解き放ち、世界を変えようと伝えるのだという。

「私たちは、起業家として適正のない人なんていないと考えています。大切なのは適性よりも、『起業家のように振る舞うこと』。起業家に共通する行動について、徹底的にお教えしています」(山川氏)

起業家になりたければ、起業家のように考え、起業家のように振る舞えばいい。「起業家的思考×行動法則」はすなわち起業道であり、世界を変える力であると、山川氏は考えている。

■バブソン大学の“起業家らしく振る舞う”レッスン

バブソン大学で徹底して問われるのは「お前は一体、何がしたいんだ?」ということ。自分の内面を見つめ、よく知り、欲望や欲求に正直になることが求められる。バブソン大学でビジネスを立ち上げるときに、事業計画書はいらない。

「事業計画書にしたとたん、そのビジネスプランは過去の形骸と化してしまいます。(その理由)その代わり、何よりもアクションを起こすことが求められます。いつも最初に『Action Trumps Everything!』(行動はすべてに勝る!)と合言葉をみんなで唱えてから、授業を始めるのです」(山川氏)

主に聞かれるのは、解決したいイシューやその解決法、そのために必要なチームやアクションなど。そして繰り返されるのは、「一体何が欲しいのか?」。資金、人材、メンタリング。事業計画書のかわりに、ビジネスを本当にリリースするための簡単なローンチプランがあればそれでいい。

ここで山川氏は、普段大学で教えている「Entrepreneurial Thought & Action(起業家的思考と行動)」の3つの行動法則を教えてくれた。

<スローガン:行動はすべてに勝る! Action Trumps Everything!>

1. Act quickly with the means at hand……いまあるもので何ができるか考えよう。とにかく行動する。

2. Pay only what you can afford to lose……失敗は当たり前。どこまでの失敗まで許容できるのか?リスクを計算しよう。 

3. Bring others to your journey……人を巻き込め。大きなことは一人では成し得ない。リーダーシップとフォロワーシップの融合。頼り上手になろう。

常に「本当にそれがやりたいの?」と自分に問い続け、その問を明らかにしながら行動に起こすことが重要だと山川氏はいう。

■日本の大企業が取り憑かれている“考えすぎ病”

山川氏は、これだけオープンイノベーションが望まれている日本で、新しいビジネスが生まれにくい背景について、「考えすぎ病」に取り憑かれていると語った。

「日本の大企業は、計画を練りすぎで “predictive logic病(事前準備病)”にかかっているように見えます。確かに、準備と行動の両方が大切ですが、不確実性の高いVUCAの時代、準備ばかりしていたら社会はすぐ変化してしまいます。行動のための準備でなく、学習のための行動。まずはやってみる、そしてうまくいかなければ、どんどんピボットすればいいのです(creactive logic)」(山川氏)

怖がりすぎずに、アクションをし続けるため、どのようなことが大切なのか。山川氏は、目的意識を持って自己理解をすること、内観・内省する(reflection)こと、他者から客観的なフィードバックをもらうこと、そして「自分から変わること」が大切だという。

中でも、日本の起業家は他者からフィードバックをもらうのがあまり上手ではないと山川氏はいう。

「アジアのカルチャーでは、フィードバックをされると『攻撃された』と感じて、耳をふさいでしまう人が多いんです。それは、教育の過程で、前向きな批判をする経験も、される経験もしてこなかったから。私たちは学生に『Feedback is your friend not your enemy!』と教えます。フィードバックの仕方を教える授業も、フィードバックを受け入れるための授業も行っているんです」

前向きな批判は、ビジネスを劇的に進化させる。それを受け入れてこそ、事業はブラッシュアップされるはずだ。山川氏はセッションの最後を次のように締めくくった。

「世界を変えるために必要なことは何だと思いますか? それは、自分を変えることから始めることです。自分を変えれば、自分の周りの世界が変わりだす。それが積み重なれば、世界を変えていくことができるはずです。もし愚痴があるなら、アクションを起こして欲しい。『やってみる』。そのことによって、You Can Change “Your” World!へとつながるのだと思います」

自分が何を求め、何をしたいのか常にクリアにし、徹底的に行動を起こすことが、起業につながるのとだと山川氏が話してくれた。

〔Q&Aセッション〕

Q1起業家は日本と世界、どちらの問題を解決すべきですか?

A.両方の問題に目を向けるべきでしょう。生活者に寄り添って身の回りの課題を解決する目線も必要ですし、社会を俯瞰して世界の問題を解決してもよいと思います。バブソン大学では、その両方を教えることを大切にしています。私たちが最初の授業で教えるのはSDGsです。世界で起こっている目を背けたくなるような問題を直視すると、多くの学生は無力感に襲われます。その無力感を、当事者意識へとつなげていくことから、意欲的なビジネスが生まれることもあります。

Q2.「失敗学」の観点から、事業の継続と諦めの判断基準をどこに定めればいいですか?

A.これはアントレプレナーのジレンマで、判断の難しい問題です。起業家にとってビジネスは、手塩にかけて育てた子どものようなもの。周りからどれだけ「やめた方がいい」と言われても、諦めがたいものです。大切なのは投資家やスペシャリスト、研究者など、周りにメンターをたくさん持つこと。そのネットワークを生かし全方位的に意見を聞くことで、失敗を防いだり、小さくしたりすることができるでしょう。大切なのは自分の中で内省した上で、外的要因についてもしっかり分析する。自責だけ、他責だけでもよくないと思います。そのバランスが重要なのではないでしょうか。

Q3.周囲から「やめた方がいい」と止められたとき、どうすればいいですか?

A.むしろ、「やめた方がいい」という批判をポジティブな行動に変えることが大切です。褒め合って良いことを言うだけでは、何の変化も起こりません。腹を割って厳しいフィードバックをもらえるということは、それだけ心理的安全性の高い環境をつくれているということ。コンストラクティブなフィードバックは、ビジネスの成長を後押しするでしょう。
批判をモチベーションに変え、それにロジカルに答えて行動を起こすこと。大切なのはそのことです。批判を受けたら「こんな悪いことを言ってくれてなんていい人なんだ!」と思うべき。そして、ビジネスのレベルアップにつなげるべきです。

Q4.アメリカにはなぜ、起業家マインドを持つ人が多いのですか?

A.アメリカは「自分に何ができるのか?」を一人ひとりが考える、圧倒的に当事者意識の高い国です。一方日本は、どれだけ緊急事態が起こっても、「待っていれば誰か頭のいい人が解決して、いつの間にか世界はもと通りになるはずだ」という依存心の高い国です。
勉強や受験と違って、社会には説くべき問題を与えられることも、その答えが明快であることもありません。どのようなイシューをセレクトし、誰と、どのような方法で解決するのか。それを常に問いかけ、行動を起こしてください。


■Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
URL: https://eightroads.com/en/                 Facebook Page: https://www.facebook.com/eightroadsventuresjapan


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