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「The Oblibion’s」企画書

キャッチコピー

「世界に忘れ去られた先で出会ったものは、愛しい怪物と空っぽの世界」

あらすじ

千日博杜(せんにち ひろと)は流れる時代に取り残されるアラサーサラリーマン。ある日彼は五年前に解散し忘れ去られ、消息を掴めなかった推し声優・氷見(ひみ)ナナミの姿を追って走り出し、階段を滑り落ちる。目覚めるとナナミは海鳥と人の交じり合った怪物のような姿で博杜を見ていた。
ナナミはその姿が死後も自分が忘却から逃れようとあがき続け、呪われた怪物の姿だと語り、ここは死の後、忘却の末の世界と語る。博杜はナナミとの繋がりのせいで忘却の世界に囚われ、死んだのだという。
そして博杜はナナミの呪いを解く方法を探すため、ナナミは博杜をまともな世界に返すため、二人は共に忘却の世界を旅をすることを決めたのだった。

第1話のストーリー

 千日博杜(せんにち ひろと)は流れ続ける時代に取り残されていることを自負するアラサーサラリーマン。古びたIpodで何年も前のアニメソング、声優楽曲、すっかり内容を記憶してしまった声優ラジオを聞きながら海沿いの街から徒歩と電車で通勤し、東京の職場でデータ入力のルーチンワークをこなすのが日課。
 日々の中ですり減って最近の流行も追えず、オタク友達や、結婚や子供が増えた地元の友人や同僚からも疎外感を感じ、周囲にも着いていけなくなっていき、会社の中でも自分は段々忘れ去られつつあることも実感していた。

 博杜自身が自分がどこか取り残されているのを実感しながらも、それでもいいと思って、10年近く前のアニメのBDをぼうっと眺める。
 サブキャラを演じる声優、氷見(ひみ)ナナミはこの作品に出てから数年ほど経って業界から姿を消し、もう行方知れずだ。上京してからは欠かさずライブに行き、CDを買い、今の言葉で言うなら「推して」いた彼女が今どうしているのか。
 きっと声優と関係ない人生を送って自分同様すり減っているんだろうな。と博杜は思っていた。

 ある日、氷見ナナミのラストシングルを聞きながら降りた乗り換え駅の下り階段で、定期券アプリの入ったスマートフォンを出そうとした拍子にIpodを落とした博杜は、転がり落ちるIpodを拾おうと背をかがめた瞬間、人ごみの向こうの階段の最下段に女性の姿を見る。
 それは彼が推していた頃そのままの氷見ナナミの姿だった。彼女は階段の最下段でIpodを拾い上げる。
 ナナミとIpod、その両方を追いかけようとして博杜は人ごみのなかで階段から落下し、浮遊感とともに視界も意識もブラックアウトする。

 博杜が目覚めると、そこは波音の聞こえる場所だった。身を起こすと近くに浜辺があり、座礁しただろう貨物船の姿が見える。
 そこが明らかに自分の知る場所ではないことを確認した博杜はまさか最近よくある異世界転移じゃないだろうと冗談を飛ばしながらも歩き出そうとする。
 そこに「やめときなよ」という頭上からの声とばさばさという羽音が聞こえる。博杜が頭上を眺めると、人と海鳥の混じったような姿の氷見ナナミがそこにいて、彼のIpodを鉤爪に握って羽ばたき、博杜を見下ろしていた。

第2話以降のストーリー

 氷見ナナミはIpodの中身を見て博杜のことを「ストーカーさん」と呼びながら、状況が呑み込めない博杜にそこが死後の世界の向こう側、忘却の世界と呼ばれる世界であることを教える。死んだ人間が最後に行きつき、覚える人も亡くなったあとに消え去るまでの場所なのだという。
 氷見ナナミは声優事務所から退所——事実上の解雇——の半年後に事故死し、そのことは誰にも知られなかった。忘れられるのが嫌だとあがいてオーディションに臨み続け、その末に死に、しかしそれでも忘れられまいと思い続けた結果、この忘却の世界へと落とされ海鳥と混じった姿のおぞましい忘却の怪物——オブリビオンになり果てたのだという。
 忘却の世界は同じように忘却に抗うことだけを考える怪物であふれて、ナナミはそこまで達する直前に、博杜の存在とIpodを切っ掛けにあの駅でチャンネルがつながったことで完全な怪物化を逃れ、そして博杜はこの忘却の世界に呼ばれたのだという。
 向こうの世界の博杜はきっと昏睡状態じゃないかと語り、ナナミは自分を少しでも忘れないでいてくれたことを感謝し、彼を向こうの世界に返すために手を尽くすという。
 博杜が死ぬ時まで忘れなければこの忘却の世界ででも正気を保てると語るナナミに、博杜は自分もナナミをその姿から解き放ちたい。忘れさせられないようにしたいと願いを口にする。
 そして二人はお互いの願いを抱えて浜辺の街を後にしようとするが、街を抜けるトンネルを目前に巨大なオブリビオンが現れる。すでに正気を失った人面の虎のような自動車ほどもあるオブリビオンに、博杜とナナミは挑む。
 博杜は角材、ナナミは鉤爪で人面虎を止めようとするが、圧倒的な力を有する人面虎には歯が立たない。
 人面虎に阻まれ諦めかけたその時、博杜のIpodが起動し、ナナミのボーカル版の古いアニメの主題歌がポケットの中から流れ始める。それと共に博杜の手にナナミの演じたキャラが使っていたスナイパーライフルが握られ、ナナミは自分の中のパワーが沸き上がるのを感じた。
 人面虎を倒したとき、彼が数作で売れなくなった末に体を壊して死んだ元作家で、作家として忘れ去られたくないという声が博杜とナナミの中に響いてきた。
 ナナミは「一度晴れ舞台に立っちゃうとオブリビオンになっちゃうんだろうね」と語り、「それでもわたしは氷見ナナミを覚えてくれた人が居たから正気を保てたのかな」と呟き、「博杜」と彼の下の名前を呼ぶ。
「伏木七海(ふしき ななみ)、それがわたしの本当の名前」
 ナナミーー七海は羽毛で覆われつつある顔ではにかんでみせ、歩き出し始める。
 こうして忘れ去られようとしていたサラリーマンと、元推しの異形の女。それぞれの願いの元、二人の忘却の世界を行く、当てのない旅が始まるのだった。

#週刊少年マガジン原作大賞  

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