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Art|ピーテル・ブリューゲル(父)《バベルの塔》

世界中は同じ言葉を使って、同じように話していた。
東の方から移動してきた人々は、
シンアルの地に平野を見つけ、そこに住み着いた。
彼らは、「れんがを作り、それをよく焼こう」と話し合った。
石の代わりにれんがを、しっくいの代わりにアスファルトを用いた。
彼らは、「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。
そして、全地に散られることのないようにしよう」と言った。
ーー旧約聖書「創世記」(新共同訳)

旧約聖書の「創世記」によると、人間は神のもとまで届く巨大な塔を造って町を有名にしようとしたとされています。町の名前は「混乱」を意味するヘブライ語の「バベル」。しかし、神の存在に近づこうとする人間たちに対して、こう神はいいます。

彼らが一つの言葉を話す一つの民だから、こんなことをするのだ

人間の言葉を通じなくさせ、塔の建設は未完成に終わります。

このバベルの塔の説話は、人間の傲慢さや愚かさを戒めていると言われている一方で、今回紹介するピーテル・ブリューゲル(父)の《バベルの塔》は、実際に塔が完成してしまうのではないかと思えるほど堅牢な塔の土台が描かれており、不可能を可能にする人間を讃えているように見ることもできます。

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ピーテル・ブリューゲル(父)《バベルの塔
1568年頃 ボイマンス美術館

混乱を意味するバベルが、人間の神への冒涜であり、同時に文明を築いた人間への称賛であることは、現代のこの状況はひじょうに示唆的な気がします。

バベルの町に住む人間たちは、天に届く塔を造ろうとしたが、現代の人間たちは、自然を制御しようとし、空を飛んで海を越え、音の速さで移動して、生命すら操ろうとしています。

その姿を神は戒めるのか、それとも人間が人間を称賛するのか。

悲しみという人間だけが持つ感情をどのように理由づけていくのか。心苦しく答えのない日々が続いています。


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