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なぜ我々は「ポカリスエットのCM」にムカつくのか?

ポカリスエットのCMといえば、青春の汗飛び散る仲間たちとの甘酸っぱい思い出であり、集団ダンスやらなんやらで兎にも角にも青春である。
しかし、なぜだろう?シンプルにムカつくのである。
この感情は、学生時代に自らを「非リア充」であると自認していたものにとっては共通感覚だろう。
それは結局の所、『押し付けられた青春像』に何らかの理由で参加できなかった過去の自分への後悔であり、そしてそういった社会から『押し付けられているもの』への強烈な恨みがあるからだ。
全国7000万人の非リア充に送るポカリスエットCM論を書いてみようと思う。


押し付けられた青春像への無抵抗主義へのイラつき

いわゆる青春像とは、まさにポカリスエットのCMが体現している「友情」「努力」「仲間」そして「淡い恋」だろう。
だがこれは単に社会が誘導する「統制しやすい集団化」である。
そもそも学校が「統制しやすい集団化」のためだけに存在しているからだ。
制服なんかまさにそうだね。
「統制しやすい」というのは、国民国家を形成するために始まった。
「上から言われたら何も考えず黙って命令を聞くだけ」の労働者と兵隊が必要だったのだから。黙って働き、納税し、人口を増やし、国を富ませ、特攻し、縁もゆかりもない南の孤島で餓死するのも厭わない『国民』の誕生だ。

しかし社会を全否定することはできない。
農業が本格的に始まった原始の暴力の連鎖を終わらせ、持続可能な集団での生活を営むためにはある程度統制が可能な集団化は人間本来の安全欲求の求めるところだろう。
だが国民国家、そして行き過ぎた資本主義により、この「統制しやすい」が安全欲求を脅かすくらい強権的で非人間的な暴力になってしまった。
公園でボール遊びをするな!なんて本末転倒な様はまさしく暴力でしかない。

この「押し付けられた」という感覚は、この人間性を否定する経済合理性からくる圧迫から生じる。
人々が貧しい時代には「仕方がない」で済んでいたのに。
故に社会からの抑圧に対して、本来の人間的な感覚で反発したくなる人間は多い。

しかし、いわゆるリア充とは、この「押し付けられたもの」への無抵抗主義者なのである。
リア充は、社会や資本主義経済が押し付けてくる記号を盛大に消費している。
今や青春や恋愛は儲かる商品の一つに過ぎない。
リア充は非リア充よりもよっぽど金を使うからだ。飲食や化粧品やアパレルの広告を文字通り受け取り、旺盛に消費するのがリア充であり、社会はそれを善としている。

ここからは学校に絞って見てみよう。
リア充はなんせ学校では優等生だ。リア充は出席率は高いし、行事には率先して参加し、教師の使命である「統制しやすい集団化」をスクールカーストという空気の読み合いにより支援してくれるからだ。
学校の押し付ける枠から多少はみ出す程度のリア充行為が許されるのは、教師とリア充は共存関係だからである。
リア充は無抵抗主義者でありながら、権力を得ているのだ。
ポカリスエットのCMとは、この無抵抗主義者を無批判に讃えているだけの「いつか見た景色」を広告として垂れ流しているのである。

ポカリスエットのCMは青春ではない

校舎の色々なところで見た「いつか見た景色」は、非リア充にはストレスでしかないデジャブである。
「統制しやすい」という評価基準は、ガリ勉とリア充を尊ぶ。
そのどちらでもない非リア充とは、社会からの疎外感を受け続けるだけの学生生活になってしまう。
ひたすら耐え忍ぶしかない。正当な評価も受けずに。

ガリ勉は押し付けられた学業のいくつかを無抵抗に極める。これは勉強ではなく社会からの要請を如何にうまくこなすかのゲームである。
リア充は押し付けられた「統制しやすい集団化」の中で自由を謳歌するフリーライダーである。しかし我々から見るととてもじゃないが自由には見えない。リア充はスクールカーストの奴隷であり、常に空気の読み合いという心理戦に晒されている。

非リア充は、そんな現実を見ながらも、そこに参加するという「妥協」もできない中途半端な存在だ。
ガリ勉のような無抵抗主義への順応という努力や、リア充のように行動へ移すこともできない。
もちろん抵抗する勇気もない。ちなみにこの抵抗とは、社会においては「病気」とされている。

ポカリスエットのCMは青春なのだろうか?
否、そもそも青春なんてものは存在しない。
青春という淡い感情は、自分で生み出すものだからだ。そこに善悪の基準はない。
僕の青春は黒歴史に近いが、そのおかげで今の自分がある。
これは黒歴史なのか?
そうではない、青春とは学生時代に感じたあらゆる感情の入れ物であり、それをどう利用するかは自分次第なのである。
だからこそ、ポカリスエットのCMはムカつくのである。



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