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ウグイスがAメロを奏でた後に

気持ちの良い晴れの日の朝だった。
職場の駐車場から鉄骨階段を降り、敷地内にあるお気に入りの場所へと向かう。
 
そこは北側の日の当たらない場所。
私が毎朝座るのは、木製の古いベンチだ。
 
その空間で私は、9対1の割合で、妄想や瞑想を行なっている。
 
私は目の前の山と空の境界線を見上げた。
気持ちの良い春の日の青空。
これから仕事をするには勿体ないと思わせる陽気だ。
 
「ホーホケキョ……」
 
迎えの山から、ウグイスの鳴き声が響いてきた。
これを聴くと、春が来たんだな~とわくわくしてしまう。

デビューしたてのウグイスは初々しい。今はあまり上手くは鳴けないけれど、日々鍛練してホケキョの響きはこなれた感じに変化していく。
その変化を感じられるのも、また春の醍醐味だと思う。
 
ホーホケキョ。の部分がAメロで、
ケッキョッケッキョッケッキョッキョ。の部分がBメロだと、勝手に私は分析している。
 
ここ数年、幻のサビを奏でる新時代のウグイスが現れるのを期待しているが、残念ながらウグイスからサビを聴かせてもらったことは一度もない。
大抵はAメロとBメロの繰り返しで、初夏になる頃にはアレンジが加わる程度だ。
 
今年デビューしたてのウグイスは、私が聴く限り、サビどころかまだAメロしか奏でていなかった。
 
なかなかBメロは難しいのかもしれないな……。
 
そう考えていると、ウグイスが奏でたAメロの後に、どこからともなくカラスのカーカーという鳴き声が響いてきた。
私は非常に驚いた。
そのカーカーは、いつも聞くカラスの威圧的な鳴き声とは違うニュアンスで私の鼓膜を震わせるじゃないか。
なんというか、ウグイスを見守る的な優しさが込められているような……。
例えばこんな感じだ。
 
『おいウグイス、ホケキョの次はどうした?』

『ごめんなさい。ワタシ初心者で、まだBメロを世に放つ勇気がなくて……』
 
『アホウ! 最初は誰だって不安なのは当たり前さ! ほらウグイス、オレのBメロを聴くがいい!』

と言って、カッカァッカッカァ……と、カラスなりのウグイスのBメロを代わりに歌ってあげているように聴こえるのだ。
 
先程からウグイスがAメロを歌えば、続いてカラスがBメロのカラスバージョンを奏でている。ウグイスがAメロを奏でる間、それに被せてカアカア言わないところがカラスの優しさじゃなかろうか。
そんなウグイスとカラスのコラボレーションが何度も繰り広げられているのだ。
 
観客席の人間が私一人だけというのが勿体ない。
私の隣に誰かが座っていたなら、この幻のコラボを共感して感動できただろうに……。
 
なんという微笑ましい鳥達の演奏会だろう。
貴重なコラボを聴かせてもらえ、朝一から私の心は温かく満たされた。
 
春ってふわふわしてて、あたたかいですね。


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