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ケーキは明日の朝捨てる

高校の友達が二人家に泊まりに来た。

二人とも夜まで仕事と用事があって、私の家に3人がそろった時にはもう9時になっていた。
デパ地下で買った総菜を広げて、一人が誕生日だったのでついでにケーキも一緒に並べて、12の時から知っている人たちと、当たり前みたいな顔をして缶チューハイを飲んだ。

ケーキは私が選んで買ってきたやつで、上部にフルーツが、側面がパイ生地に覆われた見栄えのする大きめのものだった。箱を開けたときのインパクトがでかいほうがいいと思って、見栄え優先で選んだ。

飲み始めてすぐ、一人が、アプローチをかけていた相手に振られたと言い出して、それで話題は恋愛のことになった。その子は割と恋愛体質で、いつ話を聞いても、最近うまくいかなかった男の話と今度に会う予定の男のネタを持っていた。
高校時代はバレー部で、やんちゃで、野生児みたいなやつだった。恋多き女になるなんて想像もつかないタイプだった。

中高時代の知り合いに会うと、誰に、何度会っても不思議な気持ちになる。
黒髪で、すっぴんで、いもくさい感じで毎日学校で顔を合わせていた人たちが、化粧して、酒を飲んだりタバコを吸ったり結婚したり、あまつさえ親になったりしているとは。
卒業から10年近く経っているのだから、さもありなん、ではあるのだけど、それでも私はふっと、自分だけがまだ15だか16だかの気持ちになる。
あの地味なチェックのスカートをはいて、あの青いリノリウムの床の学校の廊下に立って、どうしてみんなそんなに遠くに行ってしまったのだろう、とあっけにとられてしまう。
その感情を分解すれば、一抹の寂しさと、時の流れに適応してゆく同級生たちのたくましさへの感嘆なのかもしれない。

話の流れで、初めて付き合った人のおもしろエピソードを披露しあうことになり、私は大学の時に付き合っていた人が、夜中に突然2時間チャリを飛ばして私の家までやってきた話をした。
その時私は実家に住んでいて、夜の11時に親になんて言って外出したらいいのかわからず、「ちょっと、よくわかんないけどとりあえず出てくるわ」と理由になっていない言い訳をする羽目になった。

ロマンチックというより、ドラマチックが好きな人だった。
自分の日常をドラマチックに仕上げるのに労力を惜しまない人だった。その人のそばにいると必然的に私もドラマチックに巻き込んでくれるので、そういうところが好きだったのかもしれない。
ちなみに、20分くらい会って話をしたあと、その人はまた2時間かけて家に帰っていった。

日付が変わってから、私たちは近所のカラオケ屋に繰り出した。
この年になると、新しい音楽を追いかけることをしなくなる。ましてや同級生とのカラオケともなれば、誰も縛っていないのに自然と「当時聴いていた曲縛り」になってしまう。
最後には、全員平成生まれのくせに昭和歌謡タイムに突入した。
しかもみんな上手い。どう考えても歌い込んでいる。こぶしの入った中島みゆきやら山口百恵が熱唱される。なんなんだ。

私も布施明の『君は薔薇より美しい』とプリプリの『DIAMONDS』を入れる。
こういう時ひよってはダメだ。全力で、前のめりでいったほうがおもしろいし格好いい。そして、おもしろいやつこそ一番偉い。
冷静に考えて、私が中高で学んだ一番大きいことはそういうことだった。どんな学校だ。
でもまあ、振り返って考えると結構いい学校だった。
卒業当時は好きでも嫌いでもなかったけれど、最近になってそう思う。

ちなみに、今調べたら『DIAMONDS』は1989年4月リリースだった。昭和は1989年1月8日までだ。昭和歌謡じゃないのかよ。

3時くらいに家に戻って、足りない布団で雑魚寝して、翌日二人は帰っていった。
嵐みたいにあわただしくて、祭りみたいに騒がしくて、嘘みたいに楽しい夜だった。

買いすぎて余った食べ物や酒は全部私の家の冷蔵庫に収納された。
見栄え優先で買ったはずのケーキは、食い散らされて無残な姿になっていた。しかも、下手に大きいものを買ったせいでまだ半分以上残っていた。
食べきれる気がしなかったけど、それでもなるべく消費しようと、そこから何日か私は一人で朝夜とそいつをつついた。

パイ生地のケーキは、見た目はいいけどパイがボロボロになって、食べるたびにテーブルの上まで無残になった。
そして、最近あんまり甘いものが得意じゃないので、思ったより全然食べられなかった。
食べられないでいるうちに、クリームはでろでろに、果物はぐじゅぐじゅになっていった。

毎日会社に行って仕事もしなきゃいけなくてそれもめんどくさくて、あんなに楽しかった夜の気持ちはあっという間に消費されていってしまった。

燃費が悪いのか、それとも感度が悪いのか、私の日常は「できないことは何もない、めちゃめちゃ楽しい、最強」という瞬間と「人生めんどくせえ~今すぐ世界終わってくれ~」という瞬間に二極化される。その間の平坦というものがほとんどない。

という話を友達にしたら、「強欲だから日常に存在感を感じないのでは」と言われた。
なるほど、強欲ね。たしかにそうかもしれない。
しかし、強欲なのは悪いことじゃないはずだ。プリプリも歌ってた。

“欲張りなのは生まれつき パーティーはこれから”


欲張りなやつは、色んなものをどんどん使い捨てていくしかないのかもしれない。
新しいものをどんどん取り込むために。
仕方ない。私は次のパーティーに行く。

私はケーキからギブアップすることにした。
明日は燃えるゴミの日だ。

#エッセイ #日記


ハッピーになります。