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僕らがひとりである事のもの悲しさと安心感について

早朝、ソファに埋まりながらひとり本を読んでいると、眠れない夜よりも世界がとても静かに感じます。
あるいはもう誰も居ないのかもしれないとさえ思う。

昔見た外国の映画のように、私がこの星に残された最後のひとりで、外を歩けど誰にも会わず数週間もすれば街は植物が生え放題になり、道路には鹿なんかが歩いている、そういう世界線だったらどうしよう。

そういう世界線だったら。
そういう世界線だったとしても私は、このまま変わらず本を読み続けるのかもしれません。
悲しむことを置いておいて、恐れることも置いておいて、いつものように物語の中に旅に出る気がします。

恋人たちのやり取りに心を震わせ、空の色を想像し、手の温かさに触れ、美しい食べ物の香りを嗅ぐ。
哀しみの波に揉まれ、勇敢の儚さを憂い、愛の彩りについて考える。
気がつくと流れていた涙をTシャツで適当に拭き、「はぁ良い物語だった」とうっとりして、やっと旅から帰ってきた時、私はいつも少しだけ救われていることに気がつくのです。

誰かにがっかりすることも、誰かと嘲り合うことも、誰かのせいで不安になることも、全部全部手放せる。
夜中と昼間の間で、たったひとりの逃避行。


私たちはどんなにたくさんの物を交換し合った相手とも、二つで一つの幻想を抱いたままずっと二つで生きてゆきます。
あなたの痛みを理解してあげることなど到底出来っこなく、私の痛みを理解できるなどと言われては困るのです。

ずっとばらばら、ずっとひとり。
だから、あなたをずっと愛していられる。

逃避行を終え、二度寝してしまおうかと企んでいると、開けた窓からどこかの家の朝ごはんの香りが入ってきました。
雨の中、車がゆく音も聞こえてきます。

どうやらこの星最後のひとりではなかったみたいです。
よかった、おはよう世界。

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