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魔法つかいになりたかった、いつかの小さな女の子へ

魔法つかいになりたかった。

キラキラステッキをくるりと回してかわいい呪文を唱えれば、好きなあの子を振り向かせたり、今日のおやつの綿菓子が空に浮かぶあの雲くらい大きなものになったり、空飛ぶほうきに乗っていつもの街を自由に散歩したり。
悪者に出くわしてピンチになっても、素敵な音楽が流れてとっておきの衣装に着替え、最後にはニコニコ笑うそういう魔法つかいに。

おそらくそれは難しいようだと気が付いた私は、妄想の中だけでも魔法つかいでいようと思いました。
長い長い学校からの帰り道。
右にも左にも田んぼしかないだだっ広い田舎道を、ランドセルを背負い歩く。
その辺に生えていた長めの草をちぎりステッキに変えて、走って、飛んで、たまに歌って、思い返すと私は私に魔法をかけていたのだと思います。

明日は大丈夫になる魔法。

昨日私にかけた魔法がおそらく失敗したらしい今日であっても、「きっとどれみちゃん達だって、最初から上手に魔法が使えたわけじゃないし」と、何度も何度だって繰り返し挑戦しました。

あの時、魔法つかいになるために秘密の特訓を続けたわたしは、10代を終え20代も後半に差し掛かり、ついに魔法つかいになりました。

明日は大丈夫になる魔法をついに修得したのです。

ここ数年、やたらと「自分の機嫌は自分で取る」という言葉を聞くようになってしまったけれど(なってしまったと書いたのは他人に損なわれた機嫌をなぜ己でどうにかしろと社会は言うのかと納得がいっていないから)、それとは違うのだと自負しています。

機嫌取りなんかじゃない、ちゃんと私は大丈夫になるのだと。


魔法つかいになりたかった、いつかの小さな女の子へ。
あなたはちゃんと、魔法つかいになることができます。
あなたが憧れる赤やオレンジ色の髪にすることだってできるし、海の向こうに友達ができて、呪文みたいな言葉を使ってまた必ず会おうと約束したりもする。
大好きな誰かを喜ばせるための魔法だって使えるようになります。

あと、信じられないかもしれないけれど、私はやっと使えるようになったこの祈りにも似た魔法を、テレビで見たヒーロー達とは違ってあなたを傷つけた人を懲らしめるためには使いません。
使えないんじゃないよ、使わないんだよ。

私はちゃんと幸せになると心に決めて、魔法を使うんだよ。
あなたが頑なに笑顔の魔法を信じて笑い続けることも、間違っていなかったよ。

だから大丈夫。秘密の特訓を続けて。
私は私を諦めないで大丈夫。
あなたも、あなたのことを諦めないで大丈夫。

それと、気がついていないと思うけれど、特訓中のあなたの髪は、真っ赤な夕日に照らされて憧れのオレンジ色に染まっているよ。

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