アフロディーテ

人差し指と中指と薬指は
おかあさんゆび、おにいさんゆび、おねえさんゆび
というらしいわね
そんな風に、物思いに耽るように少し沈黙した後、彼女は僕の口の中に3本の指を押し込んでいる

すごく優しくて柔らかい笑顔で、冷たい指先が喉の奥に刺さっていく

苦しくて気持ちが悪くて、胃がせり上がってきて、涙が流れてくるけど、僕は彼女を傷つけまいと、歯を立てまいと細心の注意を払っている

痛いことしてないわよね
と言われて、痛いことしてないですと言う
じゃあなんで泣いてるの
と言われて、嬉しくて泣いているのですと言う
何が嬉しいの
と言われて、あなたの美しさを感じられているからですと言う
こんなことされて嬉しいの
と言われて、ますます指先が喉に刺さる、暖かくてどろりとした液体が口内に広がる
嬉しいですと言う

彼女が美しい顔で、気持ち悪い変態、寒気がするわよこのウジムシが!
と表情ひとつ変えずに言う、それがまた本当に神々しくて

嗚咽を抑えながら、彼女の指にもっと内側から触れたくて、それを堪えるようにして

この自意識と肉体の中に、このまま死んでしまいたいと思う

この肉体の有限さと、彼女の高尚な無限さとの乖離に眩暈がする
彼女の美の前に、どうやったらもっとひれ伏せるのだろうかと
嗚咽を堪えて僕は

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