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アフロディーテ

人差し指と中指と薬指は おかあさんゆび、おにいさんゆび、おねえさんゆび というらしいわね そんな風に、物思いに耽るように少し沈黙した後、彼女は僕の口の中に3本の指を押し込んでいる すごく優しくて柔らかい笑顔で、冷たい指先が喉の奥に刺さっていく 苦しくて気持ちが悪くて、胃がせり上がってきて、涙が流れてくるけど、僕は彼女を傷つけまいと、歯を立てまいと細心の注意を払っている 痛いことしてないわよね と言われて、痛いことしてないですと言う じゃあなんで泣いてるの と言われて、嬉

    • ヨガで感じられること

      焦点を合わせようとしていたことに気づく そんなものはいらなかった 呼吸のごとにぼやけていくそして 広がっていく どこにも焦点が合っていない 何も見ていない 何も聴いていない 何も感じていない もう何もないんだな 安堵よりもっと大きな 私を滅した先にあるそれは

      • アフロディーテ

        アフロディーテと暮らしている 彼女といえば、あらゆる想念を物質化できるし あらゆる物質を想念化できる 安堵30%、期待20%をベースにして そこに猜疑、嫉妬のエッセンスを 全体としては憂鬱さと焦燥も必要ね そんなことを言われるので、僕は探しにいく どんな感情もそれなりには綺麗で どんな感情もそれなりに醜いのよ 同時にあって、その同等性が発揮される時に輝くの 彼女が「殺す」と言えばそれは「愛している」だし 彼女が「あなたを食べたい」と言えばそれは「もう飽きたの」だし 彼

        • 10/16

          神無月十六日の子一つ時 今ここには風がない 空は高く冷たく 雲は動かない 全ての境界が曖昧になるこの場所に 人は静まり 沈黙者は雄弁に語る 露に濡れた木肌 無風の中でそよぐ葉ら 虫の音の高さ低さは重なり 月が雲に隠される 湿度を帯びた柔らかい土 月明りがぼやけ 靄は広がる 入り口まであと少し この子の柔らかな皮膚がここにあるから かろうじてとどまっている いつでも行ける いつでも見られる どんな景色も、どんな世界にも 恐れはない またしてもあなたの大きさに 自分

        アフロディーテ

          モノイティアレ

          インドの朝 濁った湖 乾いた砂埃 灼熱のバイク 象の皮膚 結婚式の招待客 招かれざる客 祝福 旅行者 カレンデュラの束 押し潰された花びら 熱気 人いきれ 褐色の潤い おしろい 女性たち 速さ 波 笑顔

          モノイティアレ

          カカオニブ

          冬の毛布 暖炉の火 コーヒー 冬の夕方 枯葉 冷たい道路 朽ちかけた薔薇 湿った落ち葉 冬の朝の土 付き合って2週間の夕方 憧れと焦燥 安堵と焦燥 ぬくもりと焦燥 スパイシーな温かいココア 裏起毛のスウェット マンダリンオレンジ 愛情の重さ 濃い紫

          カカオニブ

          10/7

          アストロメリアのおしゃべり あのカーネーションが燃えたって、聞いた? ええ、深夜1時52分、静かに発火したって。赤い花弁が、青く燃えたって。 とてもロマンチックだった。彼の嫉妬心と、猜疑心と、独占欲に、わずかな希望が火種となって、囂々と。 最後に、何か残ったか? 何も残らなかった。 そのことが、彼女にとっては唯一の癒し。 知らなかったらしいから。 望みが着火剤になるなんて。 嫌悪と貪欲と嫉妬と愛が、未来を得たって、同時には生きられないから。 その焦燥がめらめらと燃えた。 艶

          9/27

          カレンデュラのオレンジ色の祝福、甘く重く ココナツとジャスミンの濃密さが風に舞う 乾いた砂浜、煙たさと埃 夕暮れの水平線 このままでいいのかという焦燥と、いつまでもこうしていたいという憧れ 完全なる善意がもたらす暴力 疑いのない眼差し 圧倒的な光 苦しい 信仰と光と、甘美さと乾き、 渇望、飢え、 歓喜、完全性への委ねと憧れ その大いなる流れに 何もできないという無力さと小ささ 咽び泣いた。ただあなたの皮膚を噛んで泣いた 返して、私の体を、返してくださいと 正しさの持

          文章9/20

          「どうしたいの?」そう聞かれると、本当に涙が出てきた。 嘔気に飲まれ、足がすくむ。自分自身への絶望。 仕方がないから笑って、一生懸命に動いた。汗と涙と、パロサントの煙る狭い部屋。 夕刻、秋風と、すずむしの音。どうしてここには、反響がない。 悲しみも、悔しさも、嗚咽も、愉悦も、すべてを吸い込んで、どこへ消えてしまう。 私が泣いたとしても、たとえ焦っても、噛み付いても、なににも影響を与えられない。 このエゴだけが際立って、嘆いたってむだだと分かっている。 ダリヤと、彼岸花の

          文章9/20