ユスラウメ(誕生花ss)
ひたすら上を目指して登っていた。体を巡る赤い液体が、そうするように叫ぶのだ。
上を目指せ。上を目指せ。お前は地上から遠ざからねばいけない。
二本の腕で頭上の樹皮を掴み、肘を曲げ、二本の足を枝に掛け、全身を持ち上げる。その繰り返しを、へとへとになるまで行う。一日中そうして、白い月が昇ったころにようやく止まり、下を見る。昨日まで住んでいた村が、拳ほどの大きさに見える。
風の唸るような音がして、それが少しずつ重なっていった。私と同じように木々に昇った者たちの叫びだ。私も唇をすぼめて、同じような音を出した。もう上を目指すしかない私たちには、私たちしか仲間はいない。
大ぶりの枝にしっかり掴まって眠り、太陽とともに再び登りだす。恐らく、そろそろだろうという気がする。掌に木の皮が刺さり、全身がくたくたに疲れ切ったころ、ようやく、木の先端が見えてきた。
ああ、これで終わる。
ほっと安堵して、下を見下ろす。村はもう指先に載るほど小さく、人々の姿は粉のようだ。あの中に、私の子どもやその家族もいるだろう。
残された力を振り絞って、木の先端に手を伸ばす。先端に刺激を受けた木は細かく震え、私の到達を下界に報せるだろう。それを合図に、村の人々が一斉に木を揺らす。高い、高い木の先端にぶら下がった、私を落とすために。
村人の歓声が、風に乗って耳に届いた。
名前の由来の一説として「熟した実をとるときに枝を揺らすから」とされるところから着想しました。
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