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雪ずりの音

このくらいの積雪は、三次では久しぶりらしい。
バイト先や下校中のこどもたちから、例年は薄く(ちょっと厚みのある絨毯くらいよ~とのこと)積もるぐらいだよ、と聞いた。

北広島町では8年暮らし、積雪には大分慣れました、と言えるぐらいの経験値はある。夫とテキパキ作業すれば、スタッドレスタイヤへの交換も30分程で出来る。雪道の運転も以前ほど不安ではなくなった。
だけど、三次の雪景色を見て、去年とは全然別のところに居るんだなと改めて不思議に思った。
自宅前の道に出やすくするために雪かきをしていて、ふと見上げた景色に目を奪われた。あまり上手に撮れなかったけど、青みがかった太陽の光が、「ここは白夜かもしれない」と思わせるようだった。しばらく見つめて、作業に戻った。腕が少し痛い。


庭のずっと奥に、知り合いが箱罠を置いている。昨シーズンは何もかからなかったらしいが、先日朝早くにその人が訪ねてきて「掛かってるよ、見てみる?」と言われついて行った。
4頭の猪のこどもがいた。
普段大きいなと思って見ていた箱罠が小さくなったように見える。人間が近付くと警戒して暴れて檻に身体をぶつけるので、心苦しくてすぐに離れた。「こどもだけど大きいよね」と話しながら、あの4頭の親のことをぼんやり考える。
以前いただいていた猪肉は味噌で柔らかくなるまで煮込んだ。
カオルもユウも「おいしい、おいしい」と繰り返し言いながらよく食べた。


雪が積もると「やれんね~」と話すけど、私たちは現在山水で暮らしているので、実はこっそり安堵している。
水を蓄えた山からまた、暮らしがはじまっていく。


三次は猪よりも鹿が多く、引っ越してから鹿の遭遇率が高くて驚く。秋から冬にかけて毎晩、鹿の鳴き声が山中に響いていた。
その増えすぎた鹿たちが山の草を徹底的に食むので山が弱るのだという。


積雪と獣と山とが、私の暮らしと繋がっている。
そういう場所に住んでいるんだな、と炬燵に潜って考える。

ほんとうは、ぜんぶ、私とつながっている。
この国がどこに向かうのか。
真っ白な景色と雪ずりの音の中に、答えはない。


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