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スィーモルグと『不死鳥』を見た

傍にはちょうど霊鳥スィーモルグが登場する一篇の詩があった。
「人生は苦悩に満ちている しかし己の心を見つめてみなさい 川はそこで流れている さあスィーモルグに乗って飛んでいきなさい」という内容の詩である。
私は果たしてスィーモルグがどのような存在なのかを知るために、『シャー・ナーメ』と照らしていた。

イラン王に認められし勇者サームに棄てられた息子・白髪のザールを育て上げ、その子である英雄ロスタムが瀕死の傷を負った際に再び現れて、その傷を癒した鳥の王スィーモルグ。全き愛と強い魔力を持つ霊鳥。

私がアラディーンの『不死鳥』を聴く機会を得たちょうどそのとき、不死鳥=フェニックスと類似点を多く持つスィーモルグについて触れていたことは確かに偶然である。しかし、私にとっては、この組曲の主人公である「人生の意味を把握し、究極の真理をつかみたいと思っている若き男」と自分とを重ねずにはいられない体験だった。

そして『シャー・ナーメ』を読み進める中でスィーモルグが登場するたびに、「不死鳥」を鮮やかに描きだすウードの力強く艶やかな旋律が体内に鳴り響き、まるでペルシアの神話世界で浮遊しているような感覚を覚えた。

組曲として編まれたこの作品は、「不死鳥」との出会いから始まる。ウード一本で鮮烈に描き出される不死鳥の残像は物語の終わりにまで続いていく。この出会いを導入として、物語は音が織り成す連作屏風のように展開されていく。

悟空
さて、男は天竺へ向かう求道者・悟空との出会いを果たし、旅立つことになる。男の運命を変える悟空との出会いは明るく奏でられ、ユニゾンが旅の友と向かう輝かしい未来を予感させる。

月天子
困難な旅路ではあるが、男たちの心にはいつも優しく月光が射す。天国的に美しいメロディ。トレモロの優美な調べは月の導きそのもの。

天空の舞
未知との出会いに心躍る。新たな旅先で私たちが抱く高揚感もこれに相通ずるものがあろう。ウードの弾けるように明るい音色は実に写実的で、音楽と舞の愉しい宴を聴く者の眼前にありありと描き出す。

みずのほとりの物語
水面で揺れるような旋律が優美で心地よい。終盤にかけてあらわれるバイオリンのいななくような響きは切なく胸を衝き、私はしばし立ち止まることになる。

疾風
勇ましい疾走感。ウード独奏部分で眼前に浮かぶのは乾いた土地に吹く風、一斉にその風に呼応する草原、駆けていく馬。後半部分は更に分厚く重ねられた音によって荘厳さが増していく。

飛天
新たな世界へと足を踏み出す旅の始まり。未知なる世界への期待と静かな興奮が波のように伝わる。生きるとは?より良く生きるためには?幸福とは?太古の昔から今日に至るまで、人は問い続けてきた。私もまた、生きる意味を問い続けている人間のうちの一人だ。そして悟空が言うように「今は学んでいる最中なのだ」。
「我々が生きていく間に喜びを感じるとき、その時に飛天は顕れるのだ」。私の元へ飛天が顕れ祝福してくれる様子を思い浮かべながらこの曲に耳を傾けている。私はスィーモルグと『不死鳥』を見た。この邂逅は、生きる意味を問うこの旅において、示唆に富む出来事だった。

Alladeen『不死鳥』 http://www001.upp.so-net.ne.jp/alladeen/

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