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多様な人が関われるワークショップのデザイン術:準備編

住民参加型ワークショップをするとき、参加した方から言われて最も嬉しいことの一つが、「こういう場に来るの初めて」だ。

こういったイベントは、つくり方次第では熱心な「ワークショップ常連さん」だけが集まってしまい、多様な視点を取り入れた意思決定の機会とするのには結構コツがいる。本連載では、色々な立場の人が関われるようなワークショップをひらくために必要なコツをまとめた。まずは準備編。

1.誰に来てほしいかを明確に

当たり前に聞こえるかもしれないが、多様な人が参加できる場を設けるからには、参加者の像を細かく設定するのがとても大事だ。例えば、特定のエリア再開発の方向性やビジョンを作るためのワークショップなら、住民の人はもちろん、仕事やレジャーで訪れる人、学生、民間企業の代表者や商店街協会の人、NPOの人、などなど、様々な属性の人がいる。反対派の人もいるかもしれない。この再開発をめぐる関係者のマッピングをまずは行う。

同時に、「普段来られていない人」が誰なのかも明確にする。例えば、学生や、子育て中の親、外国籍の人、障害を持っている人など、この再開発の結果次第で生活の質が良くなったり、悪くなったりしうる「関係者」はとても多様だ。「常連さん」だけではカバーできない視点を持っている人の像を洗い出すことが、彼ら・彼女らが来れるような場を設計することの第一歩だ。

2.「とき:平日の夕方 ところ:市役所」を避ける

ワークショップをいつ、どこで開くかによって、誰が来るか、来た人がどういうふるまいをするか、がガラッと変わる。市役所の建物やコミュニティセンターで平日の夕方にワークショップをすると、コストが抑えられたり、準備する側の手間が省けるなどといったメリットがある。一方で、普段役所とあまり関わりがない人は、慣れない場所に一人で行くのは気が引けるかもしれないし、発言をしにくいと感じるかもしれない。仕事終わりに子どもを連れて家に帰る人は、平日の夕方の参加は難しいだろう。もし来られても、子供をほかの人に預けていて、遅くまでは残れないかもしれない。生活に困っている人は、会場に行くための交通費が惜しくて参加をやめるかもしれない。

以上を踏まえて、来てほしい人の都合に合うように、場所や時間を見直してみる。例えば平日は働き子育てもしている住民の人を巻き込むために、思い切って土日のお昼にまちの公園や広場でワークショップをしてみる。もしくは、飲食店を営んでいて土日は参加できない人に来てほしい時には、お店が比較的落ち着いている平日の午前中や昼頃に、商店街の近くにスペースを借りてイベントをするのも効果的だろう。

また、一回のワークショップにすべての人を呼ぼうとするのではなく、多様な参加者に合わせて、小さいイベントを複数回行うのも大事だ。場合によっては、すでに別の団体が企画しているイベントに便乗させてもらえば、その参加者についでに寄ってもらえる。例えば、エリアで活発なNPOが企画しているお祭りやイベントに飛び入りでブースを構えさせてもらったり、市役所のほかの部署が開いているイベントのプログラムに組み込んでもらうのもよいだろう。

3.「アクセシビリティー」を徹底的に高める

ワークショップの場所や時間帯以外にも工夫できることはたくさんある。私が以前関わったイベントでは、小さい子を育てている親世代が来られるように、イベント会場に子ども広場を設置して、大人がワークショップに参加している間に保育士さんが子どもを見守るようにすることで、親が安心して参加できるようにした。

ほかにも、日本語での参加が難しい人に来てほしい時には、同時通訳の人やその言語でファシリテーションができるスタッフを確保する。耳の聞こえづらい人が来るときは手話で参加できるようにして、オンラインのイベントなら、自動で字幕を付けてくれるプラットフォームを選ぶ。

もちろん、折角こういった選択肢を用意している場合、イベント告知のビラやサイトを通じて事前に情報を広めておくことも大事だ。また、考慮しきれてないニーズがあるかもしれないので、イベント登録の一環として、参加者がニーズを事前に共有できるような欄を設けておくのもよい。

4.「フック」を作る

残念な話だが、どれほどアクセシビリティーを高めても、やはり忙しい平日や貴重な土日の時間を使って、役所の真面目なイベントに参加しようという気になる人はかなり少数だろう。そこで、メインのワークショップのほかにも、「行きたい!」と思えるようなきっかけを作るのが大事だ。

たとえば、地元の子どもクラブや部活などのグループを呼んで、ワークショップの合間に発表会をしてもらう。午後のイベントなら、地元のお店からおやつやコーヒーを注文して、参加者にふるまう。地元出身のインフルエンサーやアイドルに来てもらうのも効果的だろう。いろいろな形で、ワークショップ以外にも参加するモチベーションになりうる工夫を埋め込んでおく。そして、しっかり告知に盛り込む。

5.ターゲット層に合わせた告知の方法をえらぶ

イベントの設計と同じくらい大事なのが、告知だ。ビラを掲示板に張ったり、市役所のウェブサイトやSNSに告知の文章を載せるほかにも、来てほしい人の像を考えながら工夫する。たとえば子育て世代に来てほしいなら、学校に協力してもらう。子どもにビラを持ち帰ってもらって親に届けてもらうのもよいし、父母会などのイベントでプリントを配ってもらう。保育園の掲示板に張ってもらうのもよいだろう。

地元で人が集いやすい場所を狙って告知するのもよい。例えば図書館やスーパー、駅やバス停などにポスターを張る。以前ニューヨークのバス停でアンケート調査をしたときは、皆さん待ち時間が長かったこともあって、アンケートに応じてくれただけでなく、調査に役立つようなお話をたくさん聞かせてくれた。

最後に、既存のネットワークを活用して告知をすることも大切だ。学校はよい例だが、ほかにも地元のNPOやコミュニティーを介して、ニューズレターに告知文を乗せてもらったり、学生のサークルのSNSで配信してもらったり。もし移民の人が多いコミュニティーなら、彼ら・彼女らが使っているメディアやグループチャットなどに載せてもらうのも効果的だろう。

最後に

以上、多様な人が参加できるようなワークショップの設計について、現段階で学んだことをまとめてみました。場所やプロジェクトの属性に応じて、いくらでも工夫しがいがあるのがワークショップの醍醐味だと思います。今後は、いざ一見さんが来てくれたときのワークショップの中身のデザイン編、リピーターを増やす編、などもまとめる予定です。


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