説明できない世の中に、ミュージカルという魔法を

私はミュージカルが大好きだ。特に好きになったのは大人になってからかもしれない。

小さい頃、ませていた私は早く大人に追いつきたくて、物事をなんでも理解しようとした。難しい本を頑張って読んだり、大人向けのドラマを盗み見たり、そんな私にとってミュージカルはこんな風に映っていた。
「歌とダンスでごまかしてるだけじゃん」

ミュージカルは確かに、大事なところで素敵な歌とダンスが登場して、それで物事が進んでしまうことがある。世の中はすべて説明がつくもので、大人はみんなそれがわかっているのだ、と信じていた私にとってはミュージカルのその構成は気に入らなかった。

だけど大きくなるにつれてわかってきた。世の中には説明できないことがたくさんあるし、賢く見える大人も実は大してよく分かっていないのだということを。

毎日必死で働いたり、遊んだり、人生経験を積んでいるので1年前よりも5年前よりも進歩しているはずだ。だけれど、生きれば生きるほど自分ができないことの方が目につくようになってくる。それは視野が広がって自分がだんだん井の外に出ていっているからなのだけれど、それでもやはりどこか悲しくなる。

そうやって自分の立ち位置も、世界の目がくらむほどの壮大さも分かってきて、前に進むのが辛くなる時も、それでも生き続けなければいけない。明日が希望に満ちていなくても、それなりに前を向いて足を踏み出さねばならないのが大人だ。

そんな時、説明のできないこの世界も全て引き受けて、なお前を向いて歩き出す背中を押してくれるのがミュージカルだと最近思う。説明できない事くらい分かっている、だけどあなたは前に進むのです、と空の上から大きな手を広げて支えてくれているような、包み込んでくれるような、かすかな温かさ。

メリーポピンズ・リターンズで、エミリーブラントがもつ振り返りざまの微笑に、ミュージカルのそんな性質を見る気がした。

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