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瀧さんに聞く!金融教育の『本質』(後編)

Fintech研究所瀧の対談シリーズ特別編。中編に続いて後編ではやるべき具体的なアクションについて話を進めてゆきます。

左:瀧俊雄 右:有馬瑛里

支出を減らす、収入を増やす、投資をする、この3つの本質

有馬:前回はお金の不安の正体や、不安に打ち勝ちお金を上手に使う方法について伺いました。後編の今回は、お金を増やす方の話です。基本的なこととしては、支出を減らす、収入を増やす、投資をするの3点セットがありますが、1番大事なものはどれになるんでしょうか。

瀧:3つにはそれぞれ大きなタイムラグがあって、すぐに叶えられる度合いが異なるものなんですよ。

今できて、すぐに効果が出ることは、まず支出を減らすことですよね。可能ならば固定費削減が良いですが、すぐにできるのは変動費です。これは善良な誰かにお財布の管理をしてもらって、もらえるお小遣い以上使えない状況にするというのが一番確実ですし、要は一定の額以上は使わないと決めて変動費を減らすのが速攻実行可能なアクションです。ただ、それだと月の変動も激しかったりするので、本腰を入れるならばサブスクを減らすなどして固定費を削る手段が有効になります。

収入を増やすというのは、今日からできることだけで考えると転職エージェントへの相談とかですが、場合によっては1年ぐらいかかりますし、不確実でもありますよね。

投資はツールや情報が溢れていることから一見やりやすそうに見えますが、非常に時間がかかるので、前提として貯金できている人がするべきことなのかなと思っています。とりあえず投資信託の口座を開くというのは今すぐできるアクションですが、目の前の飲み会を諦めるよりは明らかに不確実な行動です。そして、割く時間は意図的に1割ぐらいにした方がいい。それ以上やると面白くなってきちゃうんですよね。支出を減らすのもそうですが、仕事で収入を増やすとなると、上司と交渉したり、転職活動で面接を受けたりと楽しいアクションではない中で、3つのうち唯一面白いものと言えます。

有馬:ゲーム性があるので気をつけたほうがいいということでしょうか。

瀧:気を付けろというよりは、本質的にお金を増やすには、投資は1割の時間だけにすべきということですね。投資の基本である、長期・積立・分散の3つは勉強してもしなくても変わらない結論なんです。その他の時間で、仕事での収入や日々の支出を改善する方法を考えて実行しましょうと。

また、ご夫婦の場合であれば、夫婦や家族全体の家計の状況を把握したり、どこが不可侵領域かといったことをしっかり考え、話し合う必要があります。こういうことを考えているのは自分だけというケースが多いので、お互いに自分の考えや危機感の同期が必要です。

有馬:なるほどですね。我が家の場合は、なんならお互いに公開しています。

瀧:それが一番いいんですが、できなくて夫婦で揉めるケースが多いんですよね。なので、まずはちゃんと話し合うことが重要で、その上でこの一連のステップを進めることが本質的な解決になるはずです。夫婦で会話することで、「いまは家計が大変だから、子どものベッド代だけでも出してもらえないかな」みたいに支出を頼れる相手にお願いをするという手段も生まれたりします。いざとなった時に実家などに頼って良いライン、これ以上はやめておこうというラインを決めておけば良くて、それも立派な手段のひとつです。しっかり考えた末に誰かに頼るという手段を取り入れるのは、決して悪いことではありません。

お給料の15%を投資にまわしてみる

有馬:投資は優先順位が下がるというお話ですが、そもそも充分に勉強できていないから踏み入るのが難しくて貯金だけになりがち、という人が多いと思います。そういう人たちに向けて、資産のこれくらいは投資した方が良い、みたいなアドバイスはありますか。

瀧:手取りの15%くらいは投資にまわすと良いと思います。けっこう高めと感じる方もいらっしゃるかと思いますが、お給料の15%程度を貯蓄にまわすというのが一般的な目安のひとつでもあるんですよ。ただ、バブル崩壊によって日本中が不安に包まれていた1999年頃やコロナ禍では、少し貯蓄率が上がっていましたね。

有馬:景気と相反している感じなんでしょうか。

瀧:というよりも、防衛本能じゃないでしょうか。人間、仕事がなくなるかもしれないという危機感を持つと、貯金を殖やす傾向があります。

有馬:貯蓄率と同様の15%が投資においてもおすすめということは、つまり貯蓄ではなくこれを全て投資に回すべきということになります。

瀧:ひとまず大丈夫な一定のキャッシュを確保できていれば、正直それでもいいと思っています。

有馬:その一定のキャッシュの目安ってどれくらいでしょうか。

瀧:よく言われるのが、3ヶ月くらいは働かなくても大丈夫な金額ですね。失業した場合に次の仕事が見つかるまでの平均期間が3〜6か月ほどと言われているので、これくらいが目安だという意味です。ただし、それを言っているといつまでも投資しないと思うんですよね。少々リスクはありますが、いっそ見切りで10万円とか30万円、ちょっと乱暴ですが半月から1ヶ月分くらいの生活費だけを口座に置いておき、それ以上はもう全部積立投資しましょうとしても良いと思います。

有馬:いっそ給与から天引きで積み立てていくといいなと思います。私は企業型確定拠出年金に加入して天引きの偉大さに気づきました(笑)。iDeCoなどの天引きじゃないものだと、使えるお金から払っている感覚でしたが、天引きだと「私の手取りはこの金額」という気持ちで生きていけるので、苦じゃないです。

瀧:最初から天引きのセッティングをするのはいいかもしれないですよね。NISAは60歳までに使って、企業型確定拠出年金は60歳以降に本格的な老後資金として使えますしね。

有馬:私の場合、企業型確定拠出年金があるから生命保険は入らずに、私がいなくなった時にはそこから出る年金を遺族年金にして、と家族に伝えています。

瀧:すごくいいと思います。

ロボアド、家計簿アプリ、本人確認...Fintechでの課題解決に必要なこと

有馬:不安の解決について色々お聞きしましたが、家計簿アプリやロボアドなど、Fintechで解決できるものという観点での振り返りをお願いします。

瀧:家計については、不安の解像度を上げることが重要とお話しました。つまり自分の状況を把握することで、打ち手を理解する、見える化する、そして行動するという3点セットが重要ですと。しかし、Fintechで解決するという観点では、1つ目の「理解する」については、正直最も難しい問題です。だって「95歳の女性の8割以上は認知症になります」という情報を得ても、それはFintechでも何も解決できません。2つ目の「見える化」については家計簿のアプリを使ったり、 公的年金のシミュレーターを使ったりすることで実現可能ですよね。ここは今後も色々やれることがありますし、Fintechだけではなく転職支援会社とかがシミュレーターを作ったりしたら、すごくいいなと思います。 

運用の選択肢としては、ロボアドに任せるか、直販のインデックス投信か、その2択になると思います。ロボアド自体は、手頃な資産運用商品とかがメインになるのかなと。見える化とロボアドの間には、貯金をさせるという要素がありますが、これはまだFintechによる鉄板がないのが現状ですね。強制貯金ツールというか、給与天引きサービスとかがそれにあたるのかもしれません。

ほかに、Fintechそのものではないのですが、本人確認やKYCツールと呼ばれるものも重要で、マイナンバーカードさえ持っていれば口座が開けるような状況を実現することが今後大事なことだと思います。Fintech企業はそれらがないとサービスを開始できないですし、特に投資をする場合はすぐに証券口座が開設できるということも非常に重要です。

有馬:当社が提供しているお金の見える化サービス『マネーフォワード ME』とか見ていると、投資をしてちょっとずつ資産が増えるのが嬉しいんですよね。

瀧:投資を始めたって人って、今までできていなかったことをやれて嬉しいという気持ちになる方がほとんどなんです。でも、その人たちが次に同じレベルでの満足を覚えるのって、それをやっていることを忘れてから思い出した時なんですよね。3年後ぐらいかなと。これなんだっけ?みたいな。年1回ぐらいでお便りが来るので、それで実感するんですよね。

長い目でみて、お金のシンプルな本質を理解する

有馬:最後にずばりお聞きします。 結局、お金のリテラシーって何なのでしょう。

瀧:プロフェッショナル風にかっこつけて言うと、お金より大切なものがあることにまずは気付くこと、じゃないでしょうか。そして、根も葉もないですが、同時にお金は大切だと、ちゃんと気づくことなんですよ。お金って、うまくいかないことの象徴みたいになっています。でもお金ってちゃんと働いたら増えて、使ったら減るじゃないですか。シンプルにその結果でしかなくて、お金自体には何の意思もない。なので、増えるということ、使うということをちゃんと理解することが大事です。

有馬:あとは、突然災害が発生するリスクもあります。そこにも備えが必要ですよね。

瀧:最悪の出来事って予測不可能ですよね。自然災害だけじゃなくて、道端で超お金持ちの人を転倒させてしまって裁判を起こされるとか、そんなことだって可能性は0ではないわけです。もはや老後の備えでもないですし、そういうどうしようもないことが起こるかもしれません。それを意識すると車にも絶対乗れなくなります。

世の中にはどうしようもない隕石に当たるようなリスクがあって、 貯金によって回避できるものと、そうでもないものがあります。多くの確率論で考えるしかないことだったり、 ごく一部の人に起こり得るとんでもない状況への対処というのは、通常の対策とは分けて考えるべきかなと思います。

有馬:自分が想像する人生の先に、結婚や出産みたいなものがあるんだったら、それはもちろん備えておくべきだけども、そこからあまりにも離れた例外的なものっていうのは、そこまで備えるべきでもないかもということですね。

瀧:最後に繰り返しになりますが、例外的なケースは置いておくとして、お金のシンプルな本質をちゃんと理解できるようになることが金融リテラシーの最初の重要なポイントです。今この瞬間だけしか見ることができないと、今支出が増えたら不安、今給料が下がったら嫌、とかその日の損得感情だけで心を揺さぶられるんですけど、 今ダメでも3ヶ月あればなんとかなることも往々にしてあります。長い目で見た時に、その入りと出を見ることができるかが、金融リテラシーだと思っています。

投資だって、今日投資信託を買ってお金がたくさん出ていったとしても、明日すごく儲かる可能性だってありますよね。長い目線って言っても、人間が管理できるのって向こう2年か3年です。だけど、お金の意思決定って30年、40年かけてやることが多かったりするので、そこまでの対応が至ることが、ものすごく金融リテラシーが高い状況かなと。とはいえ、人間は本質的に今日のことしか考えられない生き物なので、まず1週間分、次は1ヶ月分考えてみるといいんじゃないでしょうか。お金のリテラシーというよりは、仕事と消費のリテラシーですね。それを網羅できる能力が金融リテラシーだし、それ以上は不要だと思います。

有馬:今回は貴重なお話しをありがとうございました。金融教育の本質に迫れたように思います!!


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