1.呼吸が止まってみた系生主 ER編

「酸素飽和度85%、意識はあります」
「43歳男性、呼吸不全で119番に本人が連絡」
「予め病院に電話で相談していたとの事」
「了解、ベッドに移すぞ。重いからもう一人来て!」

などと救急隊員が病院スタッフに申し伝えをしている状況をね、
タンカの上で巨体を揺らしながら聞いているワシが見えたのよ。

“♪ぼくのはじめてはいつだってキラキラ!夢を見たっていいじゃない乙女だもの” 作詞:うちだ

ワシにとって、はじめての救急搬送。
きっとグリーン先生とカーター先生が慣れた手つきで救ってくれると信じていたのだ。

ところが現実は妄想とはだいぶ違ったね。
正直、苦しすぎてどうにもならんのです。
呼吸も十分に出来ないし、パニックに陥っちゃってるし、目の前はぐわんぐわん波打ってるし。

カイジに強い手札出されて絶望している雑魚キャラみたいな感じ。
そんな波打った視界の中で、医療スタッフは必死に処置をしてくれているのだ。


1,2,3、ドスッ・・・。


凄い!慣れた手つきで衣服が脱がされて行く。
あれよあれよと言う間に、幼児体型のワシは生まれたままの姿にひん剥かれた訳。
もしヅラだったら髪の毛まで脱がされてたんだろうなぁ。
そのスキルに脱帽だ!ってね。
・・・。


ぼくのカーター先生がワシの肩を叩きながら話しかけてくれるのよ。
「これからCTを撮りますからね。苦しいと思いますが頑張ってください。」

うん、ワシ頑張るよ!
苦しいけど必要な検査だもんね!

もう声が出ないもんで、何とかOKの意志を伝えようと自然に出たポーズがあれだ。
シュワちゃんが溶鉱炉に沈む時にやった奴。
親指立てるポージングね。

親指を立てたままCT検査の機械に吸い込まれて行くワシ格好良い!
と思ったら、腹が引っ掛かって詰まってやんの。
太鼓腹だからね。

弱々しく親指立ててさ、CTの途中で引っ掛かってるんだよ。
43歳のおっさんがポコチン丸出しで何やってんだよ。
涙で濡れて検査結果に異常出るんじゃないかね。


超苦しいの。
まっすぐ横に寝てられないの。
なぜか自然と膝を抱えるような姿勢になっちゃうんだね、苦しい時って。

「はい息止めてくださいー」

もうほとんど止まってるような気がしたけど、頑張って息を止めますよ。
ほんと苦しいわー。
呼吸するたびに穴の開いたラムネみたいな音するしさ。
最初はヒューヒュー程度だったのに、今やピーピーと音してるよ。

酸素マスクは着けててもあかんね。
いっぱいの酸素で満たされてるとは思うんだけど、たぶん吸えてないんだわ。
ま、それでも生きて病院には到着してるから、ちょっとは安心してるワシがいる。


ERのベッドに戻ったワシは、10人はいたかな、大勢の医療スタッフに囲まれてしまった!
これはもう逃げられない!
ホッキョクグマの檻に投げ込まれたトドのように身動きを取らないワシ。
猛獣たちは一斉に!トドに手を伸ばすのであった!


ズぼシュッ!
最初に痛みが走ったのは太ももの付け根だ。
竿を切られたかと思ったね。

そこからは流石プロの連携技ってやつだ。
腕やら手やら指やら、色んな所に針が刺さるわ機械は着くわ。
あっという間に救急患者スタイルですよ。

ズブズブと慣れた手つきで針が入ってくる。
全身に刺痛があるから、意識が分散されて痛くないね。


そういや着てきたTシャツはどこ行ったかな。
けっこうお気に入りだったんだよね。

なんだか意識が朦朧として、呼吸が浅くなってきた気がする。
苦しいなぁ、苦しいなぁ。

あぁ、パソコンの電源入れっぱなしだ。
電気代掛かっちゃうなぁ・・・。


・・・。
と、このまま眠りに付くってのが普通なんだろうね。
でもワシは諦めん!最後まで抵抗するのがワシの生き様じゃあ!

でね、口が開かれて、なんか管入れようとしてんの。
もう体は動かないからさ、成されるがままよね。

ズボズボと管が挿入されてるぽいけど、感覚はないね。
ただ、超苦しい。
死ぬほど苦しいの。
アピールしようにも、体が全く動かない。

だんだん口の中に唾が溜まってきて、溺れそうな感じ。
口の半分くらいまで唾が溜まった気がする。
もうどうにもならん。

これは何とかアピールをして伝えねば死ぬ!
と思ったワシは、何とか体の動く場所を探し始めたさ。


ん~~。よし、瞼は動く。指先が少しだけ動くぞ!
ぜんぜんOKな状態じゃないから、親指立てても仕方ないな。

そこでワシは挿管してるお医者さんを睨みつけたよ。
「苦しいよ、助けてよ!」
心ではそう叫びながら実際のワシはというと、中指を立てて医者を睨みつける輩に成り下がっていたのだ。

「先生!意識あるみたいです!」
って今かーい。
ずっと意識あるんですよ、動かないだけで。


・・・。

Fu○k Youポーズで挑発されて麻酔の量を増やしたのか定かではないが、
中指を立てたまま、それ以降の記憶は全くない。
多分、意識を失ってしまったんだろう。

こうしてワシの一回戦は幕を閉じたのであった。

後から聞いた話だけど、クリーゼって発作が起こってたみたい。
呼吸する筋肉が動かなくなって、自分で呼吸する事が出来なくなっちゃうんだって。
だから気道の確保を急いでたのかもね。

どのタイミングで呼吸できなくなったんだろう。
いきなり全部動かなくなるのかな、それとも徐々に動かなくなっていくのかな。

どちらにせよ、あんなに苦しいのはもう嫌だね。

あとお医者さんに中指立てちゃダメだよ。
あれは良くないね。
あまり失礼な態度を取ると、竿なし玉あり状態で退院する事になる可能性も・・・ないか。
とにかく、良い子は真似しちゃだめだぞ!

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