【映画】バーフバリ
去年の暮れからTLで話題になっていたインド映画『バーフバリ』を観ました。ここでいうバーフバリとは、1作目の『バーフバリ 伝説誕生』と今回新たに公開された2作目の『バーフバリ 王の凱旋』の両方のことですね。この2作は、完全にお話が繋がった前後編のセットになっていて、両方揃って初めて成立する物語です(英語の副題も"The Beginning"と"The Conclusion"になっている)。というか、前編はめちゃめちゃ尻切れで終わっていて、『伝説誕生』だけ観て『王の凱旋』を観ないという選択肢はないのでした。
今回の『王の凱旋』の冒頭には、おそらく日本独自編集と思われる前作のダイジェスト映像が入るので、前作を観ずにいきなり劇場に行くという場合でもまったく大丈夫だと思います。すごく分かりやすく説明してくれるし、もともとお話自体も複雑なわけじゃない。そう、めっちゃシンプルなんですよ。親子2代にわたる英雄バーフバリを主人公とする英雄譚だから、いい意味で一直線で小難しい仕掛けがない。ただただ、バーフバリがかっこいいのです。
インド映画って私はまったく馴染みがなくて、けっこう話題になった歌と踊りのやつも全然観ていなくて。でもなんだか信頼する筋(ニンジャヘッズ)が沸いているのでこれは間違いないやつだと思って、しかもその熱狂の仕方が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を連想するような感じで。
実際観てすごいなと思うのは、遠いインドの架空の王国を舞台に、馴染みのない名前のキャラクターが馴染みのない言葉を喋っているにもかかわらず、たいへん普遍的な、ユニバーサルな物語になっているところです。筋書きとしてはいかにも神話っぽいし、血筋とか後継者争いとか裏切りとか、言ってしまえば「よくあるやつ」なんですけど、映像と音楽の見せかたが「こういう映画はこういう感じ」というこちらの常識閾値を振り切っていて、長くても(前後編トータル5時間)飽きずに楽しめる。これはたぶん誰が観てもおもしろいやつ。
ちなみに私はまず先週末にAmazonビデオで前編をレンタルで観たあと、今日地元の映画館で後編を観ました。幸い地元ではまだ少なくとも来週いっぱいは上映していたけれど、早いところではもうけっこう終わってたり、地方ではまだこれからのところもあるみたいで、事前に映画公式サイトをチェックしていただくのがよさそうです。
『バーフバリ 伝説誕生』
この映画、前半は正統派の冒険ファンタジー、後半は異様にハイテンションなイケイケ古代戦争映画というノリで、2部作の前編ながらもこれだけでバーフバリの魅力がよく分かった。そう、バーフバリという男が魅力的なのです。強くやさしくカッコ良く、ちょっとお茶目な一面もあって、そういうところをあらゆる角度から完璧に魅力的に撮っていて、しかもそういうシーンでは決まってバーフバリを称えるキャラソンが流れる。何だこれは!という感じ。
私が特に気に入ったのは、最序盤の崖登りの一連のシーケンス(と音楽)。純朴な青年シヴドゥ…のちのバーフバリは、謎めいた美女に導かれて巨大な滝をたった一人で登り、未知の大地を目指す。
これとか見ても、ほんとありえない景色のなかをありえないアクションで乗り越えていくわけですよ。笑っちゃうんだけど、男の子の夢とロマンが分かりやすく詰まっていて、一気に引き込まれました。
そういえば、バーフバリ両作品はサントラがデジタルリリースされているんですね。Google Play MusicでBahubaliを検索すると出てくるので、おそらくApple MusicやSpotifyなんかにもあるんじゃないかと。作中で流れる曲数に比べて明らかに収録曲が少ないのですが、上に貼ったYouTubeのPVの崖登りの歌をはじめ、気になっていた曲がピックアップされていてうれしい。音楽、エスニックなテイストとモダンなポップスの音作りを絶妙なバランスでやっていて、すごく親しみが持てます。過剰に現代に寄せていないところがいい。
バーフバリ以外の登場人物のなかでは、なんと言っても忠臣カッタッパさんのキャラがいいですね。すごい名前じゃないですか、カッタッパ。丸坊主だしクルクル巻いたヒゲがもっさもさだし。でも超かっこいいわけですよ。剣の達人で、マヒシュマティ王国に絶対の忠誠を誓った奴隷であり、なおかつ囚われのデーヴァセーナの身を案じ、心のうちではバーフバリの登場を願っている。クライマックスの雨のなかのシーン、名シーンですよね…。
青年シヴドゥが、生き別れの子、正統な王家の血を引くマヘンドラ・バーフバリであることをどうやって証明するのかと思っていたんです。DNA検査もない時代に。と思ってたら、普通に顔がお父さんにそっくりでひと目見りゃ誰でも分かったっていうのが最高でした。でなんか、ああこれはそういう厳密さが大事な映画じゃないんだなみたいな。リアリティレベルがつくづく神話なのです。
「バーフバリ!バーフバリ!」って群衆が叫ぶシーンがあるらしいとは聞いていたのですが、「ここでか!」というタイミングで来たのでテンション爆上がりでした。あれはもう、先代がもたらしたヒーローのミームが再燃・伝播していく過程そのものなので、『ニンジャスレイヤー・ネヴァーダイズ』の忍殺フラッグのようなものですよね。
終わりかたが、もう絶対続き気になるでしょっていう終わりかたで、劇場公開しているうちになんとしても続きの『王の凱旋』が見たいと思ったのでした。
バーフバリ 王の凱旋
で、続きです。パーフェクトな続きでした。というか、お話的に完全に満足できる形できれいに完結しました。これ以上、この物語に足すものも引くものもないくらいに!
この映画のアタマからほとんどの部分は、当代バーフバリに対してカッタッパが「先代バーフバリになにが起こったのか」を語り聞かせる内容となっています。栄光のマヒシュマティ王国が暴君バラーラデーヴァのものとなり、バーフバリは家臣の裏切りによって謀殺され、デーヴァセーナが獄中で屈辱の25年を過ごしたことは既に示されているので、そこに至る経緯を説明するわけです。このドラマが、欠けたパズルのピースをすべて埋めるようにして、ついには完全に納得できる一点に収束するのですね。
巧妙な仕掛けになっているのは、ここまでの部分で映画を観ている観客は「偉大なアマレンドラ・バーフバリを称えるマヒシュマティ王国民のひとり」になるのと同時に、「カッタッパの話を聞かされるマヘンドラ・バーフバリ本人」の気分になることができるのです。ここでギアが最大になる!よくできたドラマって、こういう爆発的なスイッチが入る瞬間が必ずあって、本作ではそれがこの、マヘンドラが全てを悟り己の使命を自覚する瞬間なのでした。
常識外れのアクションも増し増しになっていて、三本同時に矢をつがえてマシンガンのように連射するところも、人間ロケットみたいにして城壁を越えていくところも爆笑してしまった。あと嬉しかったのは、先端にネギトログラインダーがついたバラーラデーヴァのバカ戦車がさらにパワーアップしていたところです。やることが極端!
ていうかバラーラデーヴァなんですけど、悪党とはいえすごいんですよ。何しろライバルを追い落として25年も経つのに鍛錬を欠かさずムキムキのままで、子の代のバーフバリと戦うわけですから。この役者さんも独特の目力があって、バーフバリに負けず劣らずかっこいいの。ラストバトルはさながらニンジャスレイヤーとラオモト・カンの戦いのようでした。
カッタッパファンとしては、前半のクンタラ王国に身を寄せているときのコメディタッチのカッタッパが最高にかわいかった。あんな一面が見られるとは!あのクンタラ王国の一連の日常パートはどれも良くて、バーフバリの人間的な魅力が全開なのもそうだし、ヘタレのクマラ王子の憎めなさがぐっと来た(それがあんな結末になるなんて!)。
そしてこの映画、女性がめちゃくちゃ強いのです。ヒンドゥ教圏のもともとの宗教的なお国柄によるものなのかどうなのか。『伝説誕生』のアヴァンティカもそうだし、国母シヴァガミは言うに及ばず、本作のメインヒロインであるデーヴァセーナの負けん気の強さといったら!
全体を通して、神話的な反復のモチーフが何度も出てくるのです。予言の実現、シヴァ神に捧げる祈り、そしてバーフバリの再来。
唯一の不満は、最後のシーン、ついに成し遂げたバーフバリをこの瞬間こそ最大限に称えたいのに、マヒシュマティ王国民が「バーフバリ!バーフバリ!」と連呼するシーンがないところです。バーフバリを観たひとが狂ったようにバーフバリを連呼する理由が、それで私にもわかった。自分がリアルにマヒシュマティ王国民になるしかないわけです。
バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!
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『バーフバリ』を観るときは、ぜひ『伝説誕生』『王の凱旋』をセットで…。続きものであるからなのはもちろんなのですが、続けて観てみると両作それぞれ微妙に見どころが違って、いずれもがもう片方の魅力を引き立てています。