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カエルの為に鐘は鳴る

5月15日、Nintendo Switch Onlineのゲームボーイ配信タイトルに『カエルの為に鐘は鳴る』(1992年)が追加されました。去年、同サービスの開始のときから予告されており、一年以上も配信を心待ちにしていたタイトル。一時は解約していたSwitch Onlineのサービスに、このために入り直しましたね。

中学生のころ友達に借りて実機で遊んだ思い出のゲームで、小粒ながらアクションRPGとパズルの要素が掛け合わさり、コミカルなストーリー・演出・音楽のすべてが噛み合う佳作として記憶に残っています。続編やリメイク、海外移植などのない任天堂の国内向け単発作品にして昔から根強い人気があって、2012年には3DS向けダウンロードタイトルとしても復刻されました。

今回、Switch向けに改めて広い世代に向けて紹介される形となり、かつてないほど大きい画面といい音で遊びやすくなりました。わたしも早速クリアまで通して遊んでみて、だいたい5時間くらいかな。何度読んでも笑ってしまうかわいらしいシナリオと、散りばめられた個性的なパロディー、そして心憎いエンディングの演出に、久々に胸がいっぱいになってしまった。

デカ文字を使った漫画的な演出が特徴

ミルフィーユ王国を巡るふたりの王子の物語。ライバルのリチャード王子にどうしても勝てない主人公は、ライバルを出し抜いて囚われの姫を救うため、あの手この手を駆使して世界を旅する。謎の魔女「マンドラ」に導かれるがまま、カエルに変身したり(させられたり)して、時には遠回りのように思えるお使いクエストさえも新たな活路を開くきっかけになる。最初は金に物を言わせた尊大な態度の主人公が、人との出会いを通じて人間的に成長していくという、絵本のようなシンプルな筋書きも魅力的です。

2DRPG的な俯瞰でのマップ移動があるかと思うと、ダンジョン内では横向きのプラットフォーマーになり、俄然アクションゲームっぽくなる。敵とのバトルはオートで進行するのですが、単純に能力値の比較で結果が決まるので、道中でパワーアップアイテムを取り逃していると先に進めないようになっている。このあたりの箱庭的レベルデザインの妙こそが、本作を名作たらしめているところです。

とにかくキャラクターと台詞がかわいい

アクションパートには多少操作が難しいところもあり、ダンジョン最奥から1ミスで町まで戻されるようなことも度々あるんだけど、そこはSwitchの巻き戻し機能やどこでもセーブがあるから、難易度は大幅に下がっています。パズル要素は、マップをくまなく歩きまわれば自ずと答えを見出せるレベル。全体的に子供向けではありますからね。

そして、本作において何より魅力的なのが音楽! 作曲は「とたけけ」でおなじみの戸高一生さん。8-bit Music Theoryという海外のYouTubeチャンネルが、去年公開した下記の動画で、コード進行を中心にその音楽的な技巧をこれ以上なく丁寧に紐解いてくれています。

6音からなる「鐘の主題」が、作中のあらゆる音楽に変奏的に転用されている。これはまさに、バロックの昔から受け継がれる西洋クラシック音楽の楽しさそのもの! ゲームボーイの同時発音数の制約のなかで可能な劇的な演出アイデアがふんだんに詰め込まれていて、それがオープニングからエンディングに至るまで一貫しているのです。そういう難しいチャレンジを、笑いとかわいらしさに包んで、あくまでも軽くさらっとお出ししてくる。

糸井さんの徳川埋蔵金ネタとかね

改めて通して遊んでみて思うのは、本当にやさしいゲームだなということ。ゲームデザインとして巧みなおもてなしが用意されているという意味で易しいし、あるいはセリフやストーリーからにじみ出る、このゲームを作った人たちの心優しさに打たれる。しかもそれは、ゲームボーイのこの解像度と、この世界観でしか表現できないことなんですよね。

こういった作品がいつでも遊べるようになったこと、本当にいい時代になったなと思います。この機会にゲーム実況などで初見プレイする人たちのリアクションなんかも見てみたいな。

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