テクノ新譜試聴メモ:2020-06
今月めちゃくちゃいいアルバムが出まして、Headless Horsemanの5年ぶりのセカンドアルバム"Inhabited Shadows"なんですけども。
もう、1曲目から只ならぬ雰囲気があって、ウワッこれはやばいやつだと思って通して聴いたら期待以上に良かった。非4つ打ちのテクノながら、相当にフロア映えを意識したサウンド。ジャケットや表題のとおりダークファンタジー的世界観にあって、ただモノトーンなのではなく、情緒的でドラマがある。単体のアルバムとしてのみならず、BPMの幅が広いことから、ジャンルの枠を超えて広くいろんなタイプのDJに使ってほしい作品です。テクノの文脈で言うなら、6曲目の"Symphony of Sorrow"のパワフルなインダストリアルビートの上に流れる壮大なメロディーが美しい。
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もうひとつ、今月はBoiler Roomで以前もコラボしたウクライナのパーティーCXEMAをフィーチャーした企画で、"Streaming from Isolation"と題して、Stanislav Tolkachevが自宅からスタジオ・ライブを披露する動画の配信があった。これが超テクノだった。
TR-8Sは以前も使っていたけど、メインのシーケンサーはMC-707のよう。インプロのようにも見えるけど、実際にはおそらく練りに練った仕込みでこそ実現するライブで、事実マシン・オンリーのこれだけ複雑なオペレーションにも関わらず、一切グダるところがない、ひりつくような緊張感のあるパフォーマンス。テクノおたくのベッドルームならではのギーキーな見映えと、戦闘機のコックピットのようなクールさが共存するヤバさだ。
2020年6月の新譜チェックです。
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Advanced Human - CP100 [Counter Pulse]
Counter Pulseレーベル100番コンピにオーストラリアのベテランでElektraxのボスAdvanced Humanが提供した曲がカッコよかった。ドライブするブリーピーなシンセアルペジオがじわじわ展開を作り、派手めのフィルター展開のあるブレイクで弾ける。
Gemini Voice Archive - Desolate [Suara]
久々のGVAの新曲がネコチャンのジャケでお馴染みのSuaraから出ていた。相変わらず質の高いサウンドデザインで、特に中低域の骨組み部分の音抜けが良すぎて無限に聴ける。上下するアトモスフェリックなパッドが不穏な空気を醸し出す。
Drop-E - Infinito Letargo [Signal LTD]
覚醒系のシンセ使いが初期のUmekみたいで、個人的に最近特にお気に入りのDrop-Eの新曲。ダークなハードミニマルながら抜き差しの加減がめちゃくちゃよく分かっており、単体でもかなり楽しい。この人はすごい。
NØRBAK - Antime [Faut Section]
ポルトガルのFaut Sectionの28番はV.A.盤なんだけど、Reeko、Tensal、NØRBAKそしてオーナーのLewis Fautziといういぶし銀のセレクションで、正直甲乙つけがたくどの曲もいい。金属のシャフトが振動するようなキャッチーなノイズの応答を、密度のある豊かなボトムが支えるツールトラック。
Karenn - On Request [Voam]
去年アルバムを出したBlawanとPariahのデュオ、Karennの自身のレーベルからの今年初EP。このA1のトラックは、2014年のBoiler Roomでのパフォーマンスでプレイした曲のスタジオバージョンだそう。洗練されたマシン・ライブが売りの彼ららしく、ウワモノシンセのエッジの効いた攻撃的な変調が脳に気持ちいい。たまらない個性だ。裏面はかなりBPMの速い風変わりなアシッド。
Rommek - Stick it to the man [Dissonanze]
再始動後のBlueprintとかからも出しているUKのRommek。毒々しい過激なシンセを肉体的なコントロールで無理矢理ねじ伏せている感じがヤバい。はやくこういう曲で暗闇でゴリラみたいに踊れるようになるといいよね。
Gaetano Parisio - Outset (Deetron Remix) [Conform]
Conformの10数年越しのリミックス企画第2弾はDeetronのリミックスが良かった。デトロイト風のコード感のあるウワモノがおしゃれな、走ってるテクノ。このリリースを記念して、6月25日にはレーベルのYouTubeチャンネルでDeetronが自宅キッチンでDJする配信企画もやっていて、これがまためちゃくちゃにオールドスクールな選曲でカッコよかった。そろそろGaetek自身の新曲にも期待してしまうね。
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Spotifyプレイリストも更新しておきました。
「テクノ新譜試聴メモ」は、R-9が習慣的に行っている新譜チェックのなかから、気になったトラックについて個人的な覚え書きを残しておくものです。原則としてBeatport上で当月内にEPないしアルバムとして新規にリリースされたものが対象。通常は楽曲単位での紹介、まれにEPやアルバム単位で紹介することもあります。
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