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飛蚊症との10年間

2009年の2月に飛蚊症を初めて自覚して、定期的に眼科検診へ行くようになってから、気づけば10年が経っていた。先日、例によって眼科へ通院した折にふとそんなことを思い出し、わたしが10年の間に経験したこととか考えたことについて、この機会に改めてなにか書いておこうかと思いました。

なお、この記事は飛蚊症や目の健康についての正確な医療情報を提供するものではなく、個人が経験したことを記憶に沿ってつらつら書くだけのものですので、あんまり内容の正確性についてアテにされても困ります。ご自身のお悩みがある場合、インターネット検索よりも先に、まずは身近に信頼できる眼科医を探して受診されることをおすすめします。

飛蚊症(ひぶんしょう)とは

飛蚊症というのは、眼球の大部分を構成する硝子体が濁ることによって、視界に点や糸くずのようなものが見える状態のことを言います。Twitterなどで「こういうのが見える人RT」みたいなツイートが話題になるにつけ、意外に知られていない用語なんだなと思うのですが、正直わたしも自分が発症するまで知りませんでした。

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おそらく誰でも、日光の下など明るいところで目を細めるなどすると、こういったものが見えると思います。視線に追従してふわふわ動いたり、視線を動かさずにいると重力に従って沈殿していったりする。通常これは半透明だったり見えなかったりするものですが、飛蚊症がひどくなると、これらが黒く濃く、数も上の画像よりずっと多いものとして常に視界いっぱいにチラチラ見えるようになります。

20代後半のある日、いつものようにPCのモニターを見ていたら、白い背景に黒い点があるのに気づいた。前からあったのかもしれないけど、ある時急に気づいたんですよね。モニターか眼鏡の汚れかなと思っていたら、明らかに目のほうに原因があるように思える。ネットでそれらしいワードで検索して初めて、これを飛蚊症と言うのだと知りました。

なにはなくとも検査をした方が良さそうだということで、近所で評判の良さそうな眼科医を調べて行ってみたところ、やはりその通りだと。以後、3~6か月ごとに定期の眼底検査を受けに来るように言われました。

強度近視とラグビーボールとよわよわ網膜

飛蚊症と知って、初めはショックでした。端的に言って絶望に近いものがあった。今にして思えばそれは大げさすぎると分かるんだけど、でもまあ想像してみてほしいのは、クリアだった視界にあるときから急に黒い影が現れて、それは24時間いつも見えていて、治療できず自然に消えることもなく、むしろ加齢に従って増えていくと聞いたら…人並みにはビビるよ。この先の人生でどんなに美しいものを見ても、影が映り込んでしまうと宣告されたに等しい。スマホの液晶が割れたって凹むのに、言ってみればそれが修理できないんだもの。

医師によると(そして多くのインターネット上の医療情報によると)、飛蚊症には生まれつきのものと加齢に従って後天的に起こるものがあり、特に後者のほうは近視の強い人ほど起こりやすいらしい。わたしは近視で10歳から眼鏡をかけている。近視が強いと、眼球の中心軸がピントを合わせようと自然と奥に長く伸びる形になり、まるでラグビーボール状に変形するそうで、それが眼球の裏側にある網膜を引っ張ることになる。硝子体に不純物が入ったようになるのはその影響なんだって。

しかも、網膜は引っ張られるほどに薄くなり、穴が開いたり(網膜裂孔)、剥がれたり(網膜剥離)にも繋がる。つまり、長きにわたって強度の近視であることは、それだけでさまざまな目の健康リスクを伴うのです。

網膜裂孔のレーザー手術

初めての眼底検査から6か月後、再び通院したところ、左目の網膜に小さな穴が見つかってしまいました。まさに前述の「網膜裂孔」というもので、薄くなった網膜に穴が開いてしまい、放置していると網膜剥離へと進行してしまう状態。手術が必要とのことで、光凝固術、いわゆるレーザー治療を即日行うことになりました。

けどこれは手術と言ってもそんなに大層なものではなく、入院も麻酔も必要ない。空いた穴の周囲をレーザーでパシパシ焼いてくっつけて、それ以上広がらないようにするという治療です。痛くはない。痛くはないんだけど、めっちゃめちゃ眩しいんですこれ。泣いても何しても絶対閉じないようにされた目に、延々30回くらいレーザーを打たれるというタイプの拷問でした。

網膜裂孔は基本的に自覚できないので、瞳孔を開く目薬をして医師に直接網膜の状態を見てもらう眼底検査で発見するしかない。たまに飛蚊症の症状がひどくなるというかたちで兆候に気づくこともあるそうだけど、今にして思えばわたしが最初に飛蚊症を自覚して受診したのも、既に網膜裂孔の気があったのかもしれない。近視などで目の健康リスクを抱えている人に眼科の定期健診(特に眼底検査)が必要というのは、そういった理由からです。

ちなみにわたしは2009年に左目に網膜裂孔が出てから、2014年に右目、2016年にふたたび左目と、3度同じレーザー手術を経験しました。穴が見つかり次第、剥離に進行しないように都度手を打っていくしかないらしい。これ自体は仕方ないものと諦めていますが、手術一度につき3割負担で35,000円ほどかかるので、その意味での痛さはまああります。

緑内障の疑い

ただ、2014年、初めて飛蚊症を自覚してから5年目の年には、眼底検査で別の異常が見つかりました。それが視神経の欠損で、いわゆる緑内障が疑われる症状でした。

緑内障は、ざっくり言って眼球を満たす水分の圧力によって視神経の細胞が間引かれてしまい、それによって長いスパンで徐々に視野の欠け、ひいては失明などが起こるおそろしい病気です。成人の失明原因の第一位としてもよく知られているところ。これにはまた飛蚊症とはレベルの違う怖さがありました。

わたしが当初疑われていたのは「正常眼圧緑内障」。通常の緑内障は眼圧(眼球のなかの水分が外側へ膨張しようとする圧力)が上がることによって起きるもので、一般に症状の進行を抑制するためには眼圧を下げる目薬を処方されます。一方、近年は眼圧が15程度の正常な状態でも緑内障と診断されるケースがあるそう。

しかし主治医によれば、強度近視により網膜が薄くなった状態と、この進行性の正常眼圧緑内障とは、診断の区別がつきにくいらしい。そもそも緑内障は、数年~数十年かけてゆっくり進行するもので、しかも本人はふつう視野の欠損をほとんど自覚することができないとあって、実際に緑内障対策の目薬を続けてみて視神経の欠損の変化に影響があるかどうか、またそれが視野検査に視野の欠損として現れるかどうかなどを総合的に見ていく必要があると言われました。

わたしの場合、2年間にわたって眼圧を下げる目薬「キサラタン」を続けてみて、その間定期的に診てもらったところ、前後で視野検査の結果に変化は見られず、今のところは緑内障ではなさそうという結果になりました。なので、これに関しては「疑い」のままで済んだと言えます。視野検査は、いまも眼底検査と合わせて半年に一度のペースで定期的に受けています。

そしてまた、仮に今の年齢で緑内障になったとしても、目薬などによる治療を続けて症状の進行の抑制が可能な限り、すべての視野が欠けるよりも先に寿命が来るので大丈夫というようなことも言われました。

余談ですが、キサラタンにはまつ毛がめっちゃ伸びるとか皮膚につくと色素が沈着するとかいう副作用があり、使用するときは気を使いました。育毛に転用しようという動きもあるとか。緑内障そのものが深刻な病気なだけに、自分が処方されているときは内心穏やかならざるものがありましたが…。

飛蚊症になったひとへ

そんなわけで、この10年間は何やかやありつつも、定期通院のおかげで、視力も視野も特に落ちることはなく、普通に生活できています。相も変わらずコンピューターとスマホによって目を酷使する日々を続けているのに、なんとか健康を保っていられるのはありがたいことだ。

人によって程度に違いはあると思うのですが、わたしの場合、飛蚊症を自覚した初期の段階から半年程度で急に黒っぽい影の数が増えて、分かりやすくナーバスになったものでした。と言っても別に、輪郭のはっきりした影が視界を邪魔しているわけではないんですよ。意識してピントを合わせようとしない限り、ぼんやりした糸くず状のオブジェクトの両端が黒っぽく見えていて、その数の多さが明るいところでほど目立つ。だけど、普通に生活していても気になっちゃうし、明るいディスプレイの前や、白い壁紙の部屋などではとりわけ気になる。もっと言うと、目を閉じても見えるのだ。逃げ場がないわけ。

なので実際のところ、わたしなりに飛蚊症とうまく付き合っていくためのマインドセットができるまでには、ちょっと、いやけっこう時間がかかりました。生まれつき飛蚊症の人などに言わせれば何を大げさなってことなのかもしれないけど、後天的に発症した人は多かれ少なかれ同じような心労がある(あった)はず。

幸い、人間の脳というのはよくできていて、飛蚊症には慣れるのです。慣れるっていうか、黒いものが見えていても「見えないことにしてくれる」。日常的に眼鏡をかけている人なら、眼鏡がちょっとだけ汚れた状態を想像してほしいのですが、意識しない限りはまず気づかないし、見えにくいところは脳が勝手に補完してくれる。特に、楽しいことやなにかに集中しているときは、飛蚊症が見えていることを100%忘れた状態になるし、たぶんそういうふうにできている。

素人考えで不安になるのが、飛蚊症の症状は悪化するのか、またそれによる失明などの可能性はないのか、などがあると思います。わたしに関して言えば、1年目に比べて、この10年でひどく数が増えたとか、悪化したという自覚はありません。

飛蚊症の症状が出たばかりで不安になっている方、例えば10年前の自分がいたら、わたしが言いたいことはふたつあります。ひとつは、心配しすぎることはないですよ、ということ。今は難しくても、飛蚊症のある生活が当たり前になってしまうと、びっくりするほど気にならなくなる。変な話、欠けていく視野にさえ精密検査しないと気づかないようにできているのだから、脳の画像処理能力は侮れない。うまいことできているのだ。

ただ、だからといって、自身の悩みを矮小化することはしないでほしいというのもあります。悩みのレベルは人それぞれだし、特に別の理由などで心身が参っているときに初めて飛蚊症になったら、それはもう落ち込んでしまうのは仕方ないと思います。気にするなっていうのが無理な話。

なので、大事なことのもう一つは、ネット上の怪しげな医療情報に振り回されず、信頼できる眼科医を探して早めに眼底検査を受けてねということです。何につけてもそうだけれども、病名で検索するとただ不安を煽られてしまう結果になるだけのことが多い。変な本とか、変なサプリとかに引っかかってもだめ。なので、いま読んでいるこの記事すらもアテにせず、ぜひ眼科へ行って眼底検査を受けてください。

特に、度々書いてきたように、近視の強い人はそれだけでリスクがあるようなので、自覚症状がなくとも検査を受けてみる価値はあると思います。半年~1年に一度受けていればまず安心だし、費用も、通常は3,000円も行かない程度で済むものと思います(わたしは視野検査があるのでもうちょっと行ってる)。

それでもなにかWeb上で飛蚊症に関する情報を得たいという方には、例えば日本眼科医会のこちらの記事などは良さそうです。

飛蚊症になって良かったこと

最後に、飛蚊症になって「逆に良かった」みたいなことをいくつか書き出してみますね。

大きいことのひとつは、疲れに対して自覚的になったということ。楽しんでいるときや集中しているときには、飛蚊症はまったく見えない(感じない)ので、むしろどうしてもチラチラ気になるようなときは休憩が必要なのだ。ある種、疲労度やストレスのバロメーターのように利用するくらいの気分でいると、適切なタイミングで休息が取れていいような気がします。

そしてもちろん、自分自身の身体のコンディションや、もっと言えば老化現象に対して自覚的になることができたというのも、良かったことのひとつ。特に30代に入ってからは、視力だけではなくあちこちにポンコツな部分が現れてきて、世知辛い話、そういったこととも日々うまく付き合っていかざるを得なくなるわけで…。同時に、パーフェクトを求めるみたいな気分が失せて、様々な事柄に対して寛容になる傾向が生まれる。ような気がする。

でまた、面白いのが、外に出かけることが楽しくなったというのがあります。これは不思議なもので、視界が邪魔されてナーバスになるどころか、むしろこの先自分の視力がどう衰えるかなんて誰にも分からないのだから、見えるうちに美しいものはなんでも見て、楽しもうという気分にスイッチが入ったみたいなところがあります。幸いにして、記憶のなかの映像には飛蚊症の影は一切映らないのだし、どこへでも行きたいところへ行き、経験しておくに越したことはないわけです。

とりわけ、夜は楽しくなりました。白い壁の部屋がストレスになるぶん、暗いところがリラックスできると感じるんですね。もともと夜遊びは好きなんだけど、真っ暗なクラブとか尚更好きになりました。単純に、夜の散歩なんかもいい気分転換になる。

あるいは、視力に頼りすぎない楽しみを見つけるというのも手かもしれません。音楽鑑賞とか、おいしいものを食べたりだとか。一時の気晴らし以上のことに出会えたりすることもあるはずです。

何にせよ、一日一日を普通に過ごして10年が過ぎたわけで、この先もどうということはなく、同じように過ごして行くだけ。定期の通院は忘れず、目を大切にね。

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