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テクノ新譜試聴メモ:2021-05

5月のトピックとしては、イタリアのGaetano ParisioのConform Recordsの90年代から00年代にかけての旧作リマスター全24作が、2回に分けて一気にリリースされました。

実際これは、2019年末のレーベル再始動の告知以来楽しみにしていたビッグニュースで、完全に入手困難だったGaetek名義の初期作や、Marco Carolaをはじめとする地元ナポリのクルーとのコラボ、The Advent、Ben Sims、Adam Beyerといった当時のハードミニマル周辺アーティストの秘蔵リリースが含まれる貴重なアーカイブとなっています。

彼らの音の特徴としては、一貫して硬くクールな世界観で、シャキシャキしたハイハットの抜き差しと短いシンセスタブで色を重ねていく、ストイックな(あるいは逆に純粋に快楽主義的な)DJツールとしてのハードミニマル性の追求というのがあって、こういうのがナポリやストックホルムやバーミンガムのような、局地的なローカルシーンで変異を遂げていったのが90年代後半という時代でした。こういった音作りが土地性を帯びていたのも、おそらくはまだインターネットが未発達な時期だからこそのものがあって、その「均されていない、手探りの粗さ」が魅力だったのかも。

いくつかおすすめを紹介します。

1998年作、シンプルながら超かっこいい2番のA2。抑制的でタイトなグルーヴが16分のハイハットで縦に刻まれて、応答するようなフレーズが変化しながら展開していく。オリジナルDATからリマスターされているとあって音抜けも良く、間違いなく今の基準でも使いやすいトラック。

5番のA1。もうイントロからしてわくわくしてしまうし、ワンループの強度が高いからキックの抜き差しだけで気持ちよくなってしまう。同じ時期にDrumcodeに提供した19番にも通ずるモノトーンで直線的なスタイル。なおオリジナル盤のリリース時には"Last Three Mounts"と表記されていたはずなので、いずれかの誤植か改題されたのか不明です。

言わずと知れたMarco Carolaとのプロジェクト。覚醒的なウワモノと強力な裏打ちハイハットのコンビネーションがヤバくこれだけで白飯何杯でもいける珠玉のハードミニマル。

サンプル主体のパーカッシブサウンドを軸に、トライバルやラテン系のハードテクノが流行りだした00年前半ごろ個人的に使いやすかった曲。ひねりのあるファンキーな短いブレイクや大胆なフィルター展開がかっこいい。この時期以降のGaetanoは、多様化するConformレーベルと並行してDJツールに特化したA.R.T. (Advanced Techno Research)や、よりディープな表現を深堀りしたSouthsoulなど別のレーベルを立ち上げて精力的に活動していました。

00年代後半以降は、大手ディストリビューターの倒産と連動した中小レーベルの活動停止や、そもそものハードテクノ人気の衰退に伴って影を潜めていたGaetano Parisio。近年のロウ・テクノ再評価の波に乗って復活を果たした今こそ、次はいよいよリミックスでもリマスターでもない新曲を期待したくなりますね。

続いて、5月の新譜チェックです。

Planetary Assault Systems - Bang Wap [Token]

今月一番ヤバかったやつ! ハードテクノ不遇の時代から一貫してダークで重いテクノをプッシュしてきたベルギーのTokenレーベルの100番ということで、Luke Slaterの気合の入ったリリース。低音域を層のように満たす音圧の迫力と、中高域でずーっとキュンキュンいってるウワモノシンセ、時折蒸気を吐き出すようにプシューッとなるノイズ。

Function - Compulsive Thinking: Repetitive and Pointless [Tresor]

今回、4曲とも違うスタイルに挑戦していておもしろかったFunctionの新譜。デトロイト風だったりちょっと抒情的なエレクトロ風の曲があったりするなかで、「強迫的思考:反復的で無意味な」と題された意味深なこの曲だけ、Downwardsに通じるドープな世界観のヘヴィーな4つ打ちで良かった。

Crossing Avenue - Sacrificio [Outis Music]

かなり久しぶりな気がするDino SabatiniのOutisレーベルからの新譜。Crossing AvenueはDonato DozzyとNeelのSpazio Disponibileからもリリースしているイタリアのデュオとのことだけれど、まさにサバティーニの"Shaman's Path"を思わせるネオ・トライバルスタイルのチャカポコしたかっこいい三連符のディープテクノだった。この路線は超好きですね。

Barker - E7-E5 [Ostgut Ton]

2019年のBARKER001に続く002という位置づけのEP。タイトルで明らかにManuel Göttschingを意識したと思われるA1はしかし、キックなしの重層的なシンセのアルペジオによってフロアを静かな熱狂に導くBarkerのスタイルを純粋に拡張したもので、今回も間違いなくかっこいい。踊れる。

Alexskyspirit - DNA Signal (Linear System Remix) [Edit Select]

ヒプノ&ディープ系注目株のスペインのLinear Systemによるリミックス。内省的なフレーズの反復と多重ノイズが左右に振り分けられた立体的な音響が気持ちいいミニマル。

Spotifyプレイリストも更新しておきました。
興味のあるかたはプレイリストを追加してみてね。

「テクノ新譜試聴メモ」は、R-9が習慣的に行っている新譜チェックのなかから、気になったトラックについて個人的な覚え書きを残しておくものです。原則としてBeatport上で当月内にEPないしアルバムとして新規にリリースされたものが対象。通常は楽曲単位での紹介、まれにEPやアルバム単位で紹介することもあります。

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