見出し画像

テクノ新譜試聴メモ:2023-02

近年のテクノシーンにおいて実感されるBPMの高速化について考察したMixmagの記事が面白かった。

ポスト・パンデミック時代を迎えたユースカルチャーの変化を、そもそもの90年代初頭のUKレイヴシーンを巡る経済的な側面を踏まえて比較していました。また、00年代に起きたミニマル・テックハウス回帰を念頭に、速くなったり遅くなったりが時代に応じて繰り返されるのかについても。

わたしもやはり、以前からダンスミュージックにおけるBPMの速さと「若さ」の間には一定の相関があると感じていて、その意味で近年の流れは好意的に捉えています。速い音楽が元気だと、ちゃんと10代20代の若い子がやっているんだなという。そのなかで若いDJによる古いテクノの再発見があったり、逆にベテランDJのなかに価値観のアップデートがみられたりすると、もっとうれしくなる。

とはいえ、記事中にもあるとおり、BPMの早い遅いはたくさんある指標のひとつでしかなくて、遅くてハードな曲もあれば、速くて瞑想的な曲もあるわけです。たとえ円環状に流行り廃りが巡るのだとしても、その変化の様相は単純な反復ではなく、大きくは螺旋状に、細分化した枝葉があちこちで重なっていくような複雑な変化なのだろうと思います。速いテクノも遅いテクノも、新しいものは何でも聴いていきたい。

Divide - Isocrono [Warm Up]

去年の熱海のruralでOscar Muleroがかけていたヤバい曲がこれだったと判明。自分とこのレーベルのプロモでしたね。バキバキに潰した独特の音像は一貫したDivide節で、たぶん他の曲と違和感なくミックスするのはそれなりに難しいと思うんだけど、フロアではバッチリハマっていた。

Markus Suckut - Flux [RSPX]

Radio SlaveのRekidsのサブレーベルRSPXのコンピレーション第2弾にMarkus Suckutの新作。いつもながらダウナーで重く歯切れのよいグルーヴ。分厚いシンセパッドとSEの応答のなかで、レイヤーされたサブベースがはっきりと帯域を分けてきれいに聴こえるのが気持ちいい。

Ferdinger - A Sense Of Urgency (Kmyle Remix) [Skryptöm]

フランスのSkryptömの新譜から。今っぽい骨太な速いテクノに、ブリーピーなウワモノ、陰鬱なコード感のあるアルペジオが加わって独特の存在感を放っているリミックスです。イントロの入りかたも少し凝っていて好き。

Mike Parker - Rainmaker [Mutewax]

ベルリンで活動するプロデューサーMutecellのレーベル、Mutewaxの5番にMike Parkerの新作。粒状感のあるアナログベースにエグいフィルターLFOと呪術的なシーケンスの反復。ほかにClaudio PRCも。長く活動の滞っていたレーベルだそうで、このままディープ系を掘り下げていくのかな。楽しみ。

Drucal - XX 11 A1 [Molecular]

MolecularのXXシリーズ、6番で何十年か越しに復活してから新人をピックアップしつつ精力的にリリースを重ねていて熱い。前のめりな覚醒的アルペジオが繰り返される重いヒプノ系ミニマル。DrucalはコロンビアのDJだそう。

Gary Beck - Lomax [BEK Audio]

DJ RushをフィーチャーしたGary Beckの新作、ファンキーなサンプル使いが派手で楽しいトラック。Rush節丸出しのリミックスとどっち使うかは完全に好みですが、せっかくならリミックスでは歌ってほしかったかも!

Spotifyのプレイリストも更新しておきました。

「テクノ新譜試聴メモ」は、R-9が習慣的に行っている新譜チェックのなかから、気になったトラックについて個人的な覚え書きを残しておくものです。原則としてBeatport上で当月内にEPないしアルバムとして新規にリリースされたものが対象。ピックアップは楽曲単位、またはEPやアルバム単位でも紹介しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?