Ryoko Kamikawa

未来短歌会夏韻集/波長同人

Ryoko Kamikawa

未来短歌会夏韻集/波長同人

マガジン

  • 歌集を読む

    歌集を読んで考えたことをまとめていきます

記事一覧

2023年に書いて発表したもの

作品 「波長」2号 ・短歌連作「回廊温室」10首 ・詩「天の秤」1篇 「現代短歌新聞」2023年5月号 ・特集 福岡県の歌人:短歌連作「日々の泡」5首 「短歌研究」2023年11…

Ryoko Kamikawa
6か月前
8

心と肉眼ー竹山広『空の空』(3):歌集を読む

 言葉はさまざまな物理的制約を無視することさえできるが、仮想を扱うときでさえ現実に重心を置いて詠んでいることにも肉眼をはじめとする身体による方法意識の徹底を見る…

2

心と肉眼ー竹山広『空の空』(2):歌集を読む

 引き続き指示語に着目して読んでいく。 かがやきて声あぐる水この川のかの日の死者をわれは語るに ー竹山広『空の空』(ながらみ書房、2007年)  原爆公園に行き被爆…

2

心と肉眼ー竹山広『空の空』 (1):歌集を読む

  『空の空』は2007年にながらみ書房より刊行された竹山広の第8歌集で513首を収める。まずは有名なこの歌から。 コマーシャルのあひだに遠く遅れたるこのランナーの長き…

3

2023年に書いて発表したもの

作品 「波長」2号 ・短歌連作「回廊温室」10首 ・詩「天の秤」1篇 「現代短歌新聞」2023年5月号 ・特集 福岡県の歌人:短歌連作「日々の泡」5首 「短歌研究」2023年11月号 ・十首の世界:短歌連作「水と自由」10首 「飲食の歌Mook ランチA」 ・詩「静物」1篇 「現代短歌」2024年1月号 ・巻頭作品:短歌連作「底力」50首 評論・エッセイなど 「未来」2023年1月号 ・江田浩司『前衛短歌新攷』書評 -「喪失から喪失まで」 「波長」2号 ・

心と肉眼ー竹山広『空の空』(3):歌集を読む

 言葉はさまざまな物理的制約を無視することさえできるが、仮想を扱うときでさえ現実に重心を置いて詠んでいることにも肉眼をはじめとする身体による方法意識の徹底を見ることができる。 原爆にもし遭わなかったならば、と仮定して空想のなかに慰藉を得ようとした。しかしこの仮定は〈原爆に遭った〉現実の裏返しであるがゆえに、「せば」に続き得る話者の願いははじめから書かれることなく手折られている。 仮想の向こう側に心を遊ばせないのは、死者との絶対的な隔たりが根にあるのだろう。 この歌では、息

心と肉眼ー竹山広『空の空』(2):歌集を読む

 引き続き指示語に着目して読んでいく。 かがやきて声あぐる水この川のかの日の死者をわれは語るに ー竹山広『空の空』(ながらみ書房、2007年)  原爆公園に行き被爆当時の記憶をテレビカメラの前で語ったことを題材とした連作から引いた。視聴者だった前回の歌とは対照的な立場である。 「われ」の心は「かの日」、つまり1945年8月9日へ立ち帰り、かつての阿鼻叫喚や死者を見ている。しかし肉眼が捉えるのは輝きながら水音を立てている川である。そして、心と肉眼とがそれぞれに捉えたもののコ

心と肉眼ー竹山広『空の空』 (1):歌集を読む

  『空の空』は2007年にながらみ書房より刊行された竹山広の第8歌集で513首を収める。まずは有名なこの歌から。 コマーシャルのあひだに遠く遅れたるこのランナーの長きこの先  話者はマラソンなどの長距離走の中継を観ている。少しの間、コマーシャルが入ったのち中継に戻ると、ひとりのランナーがずいぶんと集団から遅れをとっている様子が映る。そしてランナーの「コマーシャルのあひだ」の時間を思い、「この先」を思い遣るーーといった内容である。 「この先」とは、レースの残された道のりで