心と肉眼ー竹山広『空の空』(3):歌集を読む
言葉はさまざまな物理的制約を無視することさえできるが、仮想を扱うときでさえ現実に重心を置いて詠んでいることにも肉眼をはじめとする身体による方法意識の徹底を見ることができる。
原爆にもし遭わなかったならば、と仮定して空想のなかに慰藉を得ようとした。しかしこの仮定は〈原爆に遭った〉現実の裏返しであるがゆえに、「せば」に続き得る話者の願いははじめから書かれることなく手折られている。
仮想の向こう側に心を遊ばせないのは、死者との絶対的な隔たりが根にあるのだろう。
この歌では、息