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私がここ一年ほどに書いた詩のアーカイブと新しく書いた詩を投稿していきます。
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2022年7月の記事一覧

【詩】渡りの願い

それは長い旅路。 プラズマを吸い込みながら泳いで、概念の皮膚を纏いながら。 星から星へと渡り、時から時へ飛び移り、三次元をくしゃくしゃにして。 だが、容易いことだ。 何が代謝し入れ替わろうとも、変わることのない物質に満たされたこの魚は、何光年でも泳ぐことができる。 銀河団を渡り、はじめと終わりを跨ぎ、 そう、初めから、何も変化することなく目的地へと辿り着く。 渡りの願いこそが、全ての断絶に橋をかけるのだ。 名前さえないものは、どこまでも可変だ。 概念すらも持たない。 完全に

【詩】双つでできている

物語の始まりに 重力井戸の底に落とした 宝物を探していた王子あるいはお姫様 手に触れる六等星の砂粒ばかり 極夜より暗い水素雲さえない空で ずっと下まで落ちてしまった 名前のない小さな真珠 呼びかけることもできない だから身を投げて探しに行こうか 真っ暗なトンネルの壁に プラズマのイルミネーションが 空想の動物たちを描く 花火のように明滅して通り過ぎ 沈んでいく重力の水の中へ 青い魚たち、歌う鯨たち 背ばかり高いエメラルドの木々の中へ 一等星の石ころにも用はない 一つのもの

【詩】七月国の贈り物

テーブルには二層のカクテル 青いケーキと銀の星 水色のbiosphere オーロラ色のリボンをかけて 七月国の贈り物 惑星はブーケの中で呼吸をしている 地軸の踊る夏色のパーティ 水の子午線の席に座したもう なんでも持ってる貴方様へ 差し上げられるものなど 想像もつかない 真ん中だけが空いたままの 夢を透かしたプレゼントボックスに 沢山のキャンディと御所望の品を ほんとの私は知っているのに まるで見えない透明のガラスの器 誰にでも見えるよう 丸い器を満たすため 涙や赤い血を捧

【詩】いさなの旅人

かなしくはない 重力に捕われどこまでも沈み この深海に何の光もなくても 透明になってすべて水に満ちて この身に何もなくても かなしくはない むかし飲み込んでしまった 取り返しのつかないものが たったひとつの臓器になって 海の怪物になってしまっても かなしくはない 涙が青く光って深海を照らす 悲しみではなく生命の涙だ 生まれ落ちた時に流す歓喜の涙だ 海水の中に溶け混ざらずに 無明の中の初めての光になって 海溝の青色の太陽になって 僕は二枚のこの翼を広げよう 水を掻く大きな青い

【詩】Sleep, your amorphous

界のない流体の 見えない底を掴もうとして 君が夏と名付けたから 揺らぐ膜干渉のイリデッセンス 融けてしまえ 奏でるのは千のイモータル 海の朝夕を閉じ込めた小瓶 逆さまにして 昼に月星 夜に太陽を 振り混ぜる二層のセレスト 君の瞳に完全環があって それが最後の探しもの まだそのことを忘れたまま 奏でられるノヴェレッテン 君の明日と昨日の界を洗うため 海の音楽は眠らない 歌う波のヴィーゲンリート 何もかもを手放して 融けてしまえ 眠れ水に夏のアモルファス 海の代わりに 眠れ君のア

【詩】少年の国

不道徳が枝分かれをして咲く薔薇を 甘い薬だと差し出されても 僕には要らない 毒のようなこの愛一つでいい 正義を裏切るときは 命じられてであってはならない 毒のようなこの愛がそうさせるとき 喜んで青い血を流そう 大人の国から人々は言う 混ざらなければならないと 理想と平安のため汚れ 汚れた後に首を垂れよと 無力を知って翼を捨てよと 愛など無いと知れ 天の国などないと知れ 神の国の約束の秘密を忘れてしまえと 君に言うのだ 君の堕落を望む者の国は 君の何を知っているのか 僕には

【詩】七数をいくつもかけて

紫陽花色の風がきらめかす 時間の水面が満ち潮に 天ノ川を遡る 雨が降れば嵩を増す 時間の水面に浮かべた 笹舟は光の波で踊る 欲しいものは何でもない 惜しむものも何もない 時間の水面で水を汲み 僕らは何でも叶えられる 天ノ嶺に降り注ぐ あの虹の雨が流れ来て 時間の水面は涸れることはない 紫陽花色の夕暮れに 目を細める君の名を呼ぶ 七数をいくつもかけて 僕は君の水面を満たす 君がくれたものは 時間の水面の向こうまで 全てを満たしているのだから 願いごと、遠き人へ 遠き人、夜が

七夕の歌2022 七月の水

浮き足は炭酸水の波を掻く ラムネ瓶の中太陽はやっところがり きみは笑えよ いま晴れ上がり ◇ 雲の心はのこりの星か かき氷 溶けて落ちきて七色蜜水 ◇ かんきつとすいかを水にとかしまぜ ひといきに飲み夏をめぐらす ◇ 月が走れば波が従い 歌の調子を好きに変え 雲吹き晴らす南風の娘 君知らぬ真夜のうちに雨降し 君が命にて神鳴りを打つ われ七月の鳥 ◇ いそいそと夏のやしろを建て造り 休め地の者雨降らし 今宵は空の祭り夢見て ◇ 七夕にきみとかくれて水あそび

【詩】帰りゆけ西風

うす硝子の窓をたたいて何度訪れても 下ろした閂でとざしたものを 夜風に乗せて甘やかに花の香を伝え来て 懲りもせぬ西風憐れみは この身にはもはや注ぎきれぬのに 帰りゆけ西風 その花弁は持ち帰り 遠き人の眠れる瞼へと 帰りゆけ西風 この部屋にまだ春は要らない 遠き人への一言の別れの言葉を共にして

【詩】祈るものたちに残された氷の幻想

彼らに遺された幻想は氷のように美しい しかし、氷のように確固たる存在ではない 人々の間にあっては氷など、 時には無いものと言われるだろう 春になれば溶けて 夏になれば跡形もなく消えてしまう 輝いて見える時だけ美しく、 輪郭さえ光に透き通り、見る者の目には時折 その本来の姿さえ見えないのに それでも彼らに唯一遺された氷の星 暗い夜に白く瞬く祈りの星 祈り続けた者にだけ遺された氷の幻想 その他に何も与えられなかった国で 私たちはその儚い氷の幻想に縋り己を憐れむ 氷の刃が自らを傷

【詩】アルカロイド

アルカロイド 酩酊をあげる 目覚めても熱水の中 醒めない夢 揮発性の 呼吸器を満たす 朝の草花芳香る毒 アルカロイド 眩惑をあげる 半月揺蕩う明るい夜の 引かない潮 浸透性の 皮膚に纏わる 浅瀬の波燐光の水 夏の渇望は 生命普遍の毒になり 喉を潤す朝露に溶ける 君は正しい、 凌霄花の讃える太陽の必然 アルカロイド 熱譫妄をあげる

【詩】夏をみる

恋におちるように夏をみる 奇跡のような晴れ空を 憂い沈めおけない乾いた風を 長続きしない夢のように 切り取れる形も名前もない どこまでもあなたに似た夏を