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映画「斬、」森とは何か

 評判がよかったので、塚本晋也監督の新作「斬、」を見に行った。なんでだろうと思ったら、予告の森がすごく気になったからだ。見ながら、そういえば、漫画「ベルセリク」も剣をふるう主人公と森が印象的だったなっと思った。賞をもらったとき、作者の三浦健太郎さんが剣は男性の象徴とはっきり語っているが、この作品の刀もそういったことなんだろうか。ベルセリクのなかでも、森からやってくる怖いキャラクターがいるし。孤立した人々と森ってホラーの定番だけど、そういえば、黒澤明の「七人の侍」もそうで、リーダーの勘兵衛が塚本晋也の演じた役に似てるなった思った。正義の人に見えるけど、何人もの人の死をまねく。黒澤映画は、「デルス・ウザーラ」や「羅生門」、森を舞台にした作品が多い。「羅生門」はロケ地の柳生街道を家族ハイキングしたことがある。ずぼらな父のせいで昼スタートで春日大社の神山の原生林を日没までに奈良に抜けるという怖い体験した。しかし、そのすごい美しさは一生の宝だ。その後、映画を見て暴力の場として描かれていて、なるほどと思った。そういった森に感じるのは生命が満ち溢れていて、こわいぐらいの圧迫感だ。そして、人間もその生命のひとつである恐怖だ。その姿が「斬、」にも表現されていて、黒澤映画のながれをくんだ映画なんだなあと思った。前作の「野火」の戦争と森、暴力と森という思考の流れも感じたりした。

 その後、学生時代、万葉旅行というサークルで奈良なんかの古い森に行った。森は古代にあった古い感情にもどる装置なんだなとも思った。別にそんな特別なところでなくても、明治神宮の森でも十分生命のざわざわした感じがある。たしか、誰かの小説でそこにすむ魔物のようなひとの話を読んだ。映画がはねて、夜の町を駅に向かった。人間の命のざわめきがぐっと暗闇できらめく、その中である種の爽快感を感じた。町は人間の作った森なんだろうと思った。


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