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ねこやん

 ねこやんは、ご近所でエサをもらってだらだら生きているねこである。今の家に引っ越ししたとき、おおむね、そっと庭を横切っていった。ときには、うんこをしたが、嫌だなっと柔らかく抗議するだけだったのは、わたしがまえの家のむかいの犬、くろと折り合いが悪かったからだ。お引っ越しの直前、夫に、くろはずっと前から仲良くしたがっている、許してあげなさいと諭された。うちのちいさな息子たちに吠えかかったりしていたし、なんだか、私のずずぐろい心をさっして、吠えるんじゃないかと、気に食わなかった。わたしは前の家に来たころはすさんでいたのだ。しかしながら、わたしとくろはあっさり仲直りできた。くろは寂しかったのだな。

 そんなわけで、ねこやんにやんわりとつぶやいてみたのである。何度か、繰り返すと、ねこやんはうんこを庭にしなくなった。そして、私たち家族とねこやんは、静かに関わらず、過ごしていたのである。だが、ある寒い日、心が疲れきった私は、エサにあぶれたねこやんにねこ缶をあげた。 私は、卑怯者だった。ねこやんが近所のひとに嫌がられて、追っかけられたりしているのも知っていた。そして、彼女に餌をあげたり、トイレを世話したり、子猫の里親をさがしている何人かが、陰口を叩かれているのも知っていた。だから、次に餌をあげなかったのである。それなのに、いつしか、ねこやんはうちの家族になじんで日々をすごすようになった。

 玄関でひるねし、車の下で暖をとり、木陰で涼んでいる。そして、私たちにすりすりして、だっこしてくれるように頼んできた。いつぞやは、訪ねてきた悪いひとにからんで、来ないようにしてくれた。そして、たまにレスキューで餌をやっても、次がもらえないと拗ねたりしないんである。

 いつも、餌をやっているひとに悪くて、出かけることが多くて、かえなくて、いえなかったが、ここに記す。ねこやん、ありがとう。生きているもの同士、どうやってつきあっていいのか、あなたに教えられた。ねこやん、お互い、ずいぶん年をとったが、生きててくれてありがとう。

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