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私が好きな映画

最近で一番心に残ったのは「スリービルボード」だ。アカデミー賞を同じ年に争ったギルレモ・デル・トロの「シェイプ・オブ・ウォーター」も見て、悪役を演じたマイケル・シャノンにいたく感心した。デル・トロは映画史に残る作家だと思う。でも、今もシーンまでも詳細に思い出すのは、このささやかな映画だ。

娘を行きずりの男に殺された母親をフランシス・マクードマンドが演じている。この母親は娘をののしるし、決していい母親ではない。しかし、必死に生きている人なのだと思う。

南西部の貧しく教養のない白人中心の町が舞台だ。そのなかで彼女は娘を助けてくれと大きな立て看板を三つ、街道沿いに建てる。そのことで起こる出来事が描かれる。彼女に訴えられた警察署長の内情、その署長を慕う差別的な警官、立て看板を許した広告業者、そして、彼女の家族。彼らはそれぞれに秘密を抱え、負い目をもっている。言葉にしてしまうと社会に抹殺されかねない。そういう日常を彼らは生きている。

しかし、そのことは察せられ、ひそやかに許されている。この辺りにぐっと来た。いわゆる、トランプ支持者の人々の内情だ。彼らは学問はないかもしれないけれど、言葉は直情的かもしれないけれど、人間の複雑さは理解できる生活者であり、労働者であり、社会を支えている人たちだ。しかし、救済は少ないのである。

もちろん、白人層の傲慢さはあったのだろう。しかし、声高に追い詰められるべきなんだろうか。最後に彼女によって大やけどをさせられた警官と彼女は犯人らしき男に会いに行くという名目で旅に出る。それはマザコンとされた男が母を捨てる行為であり、負い目を追って母をケアしている生き残った息子から離れる行為である。つらい家族からの依存から逃れる旅だ。

この映画はアイルランドの地味な社会派監督の作品で、どちらかといえばフランシス・マクードマントの映画だといえると思う。しかし、これは監督の最高作だと思う。彼女はその力を引き出したのだ。映画は多くの人の情念を写すものだと思っている。彼女はその触媒なのであろう。

この映画は監督も言っているように、北野武の暴力感の影響をひどく感じる。彼女の次回の主演作が中国系のクロエ・ジャオのノマドランドであるのは納得だ。

彼女はアメリカの白人の現実をずれのある他者の眼で捉えなおしたいのだろう。

素晴らしい映画はたくさんある。それが心に触れるのは人生の何かを交換できるときで、それが好きだということかも。私にとっては母親だった自分を少し動かしてくれたと思う。

二人の放浪の先に何が見えるか。ノマドランド見に行きます。


ノマドランド見てきました。誠実ないい映画でした。アメリカの基本たる、よりよき場所に移動する生き方に対する深い考察のある映画でした。

アメリカの自然や生き物たちが美しい。人間は自然の一部なんだという思想につらぬかれていました。ただ、そういった野垂れ死にを貫くのは宗教心かなって思い、誰でも心残りなく遂げられるものではないなって感じた。

 まあ、人間くさいスリービルボードほどは心に残らなかったけど、ここでは死後だけど別の場所を追求した映画なんだなって思いました。

フランシス・マクマーマンドはコーエン兄弟の映画作りの同志なんだなって改めて演技だけでない彼女のすごみを感じました。アカデミーを取るにふさわしい格調のある映画でした。


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