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【小説】「いちごミルクのかき氷」05


「はい。どうぞ 」
店の奥へ入って行ったお婆さんが夏巳や夏夜子のいる場所に戻ってくると、冷たい水が入った透明の新しいウォーターボトルを夏巳にそっと手渡してくれた。

​「あ、ありがとうっ」夏巳はお婆さんの親切心に、有り難い気持ちと申し訳ない気持ちが入り混じった情けない顔でボトルを受け取った。


「ああ、いいですよ そんな……息子が自分で落としただけですから」

まるで自分だけが悪いかのようにお婆さんに言う母、夏夜子の姿を見て夏巳は内心イライラした。

((母さん……オレ悪くないんだけど。))

​「いいんだよ いいんだよ! ビックリさせた、わたしが悪かったんだから? それより、あんたら急いでないなら、うちの店のかき氷でも食べていきな?」

​「……いいんですか?」夏夜子と夏巳は一瞬 顔を見合わせた。

​「いいんだよ いいんだよぉ! この田舎にゃ、あんたらみてぇな若けぇもん、あんまりいないから婆さんは会えただけで嬉しいんだよ! ゆっくり休んでいきなさい」

​「う〜んと……じゃあ オレはいちごミルクがいいかな」壁に貼られた手書きのかき氷ポスターを見ながら夏巳が言った。


「わたしにも同じモノを下さい。おいくらですか?」

​夏夜子は自分の肩にかけた鞄から財布を取り出そうと鞄の中に手を入れ、ごそごそと財布を探した。

​「はいよ。いちごみるくを二人分だねぇ〜ちょっとだけ高いけど。2千円だねぇ♡」

​「あ、はい。2千円ですね! 2千円っ!?」

​「……(汗)」

もしかして…… ボラれた?


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​バタン! と車のドアを閉めて、夏夜子と夏巳の乗った青い車にエンジンが掛かると。

車はゆっくりとまた動きだした。車の窓ガラスから駄菓子店のお婆さんが笑顔で夏巳と夏夜子に手を大きく振ってくれた。

​夏夜子は、そんなお婆さんにひょこっと軽く頭を下げてお辞儀した。

​夏巳も片手に千円した高級かき氷を持ちながら、もう一方の手でバイバイと小さく手を振って二人はボッタクリ婆さんと別れた。


​「夏巳 そのいちごみるくのかき氷。ちゃんと味わって食べてね?」

​「えぇ (汗) 」

​夏夜子は自分の隣で2千円の高級いちごみるくをシャリシャリと食べる夏巳を見て、なんだか複雑な気持ちになっていた。

​そして自分の分は、お婆さんにしつこく何度もかき氷おいしいよ? と勧められたが買わなかった。

​夏夜子が運転する車は、田舎道をずっと走り続けた。

​カーオーディオのデジタル時計を見て時間を確認すると午後五時を過ぎていたが、空はまだ明るかった。

​昼ご飯は二人とも食べる気が起きなかったので抜いたけど、今は少し食欲も湧いてきた。

​車内は車のエアコンがとても効いてすごく快適だが、夏巳は少し疲れて今にも瞼が落ちしそうになっていた。


​「夏巳、もうすぐお爺ちゃんの家に着くわよー」

​「うん……」

​「ほら、見えるでしょ? あの大きな山がそう、緋天山! あの山の中にお爺ちゃんのお寺があるの! 」

​「山の……中?」

​夏巳は目的地が、だんだん近づくと途端に目が覚めてしまい、少しだけ不安になった。

​さっきまでウトウトしながらも、窓の外をぼーっと眺めていたけど、外は畑に畑に畑に案山子ばかり。

​どこにもゲームセンターやハンバーガーショップや、コンビニエンス ストアすら見つける事が出来なかった。

​「夏巳。これからお爺ちゃんの家でしばらくお世話になるんだから、ちゃんと良い子にしてね?」


「うん……わかってるよ」


​「田舎に慣れるのに少し時間が掛かるかもしれないけど遊び場も沢山あるから、夏巳もきっと気に入ると思う」

​「……あのさ、お爺ちゃんってどんな人?」


​「う〜ん、そうねぇ〜。ちょっと変わった人かなぁー? 夏巳もお爺ちゃんにはもう会ったことあるのよ」

「オレ全然覚えてないだけど…… 」

​「まだ小さい頃だから忘れたとしても仕方ないわねぇ〜。でも……夏巳も私も、この山に囲まれた田舎町で生まれたの……それにお爺ちゃん以外にも、お寺で会わせたい人がいるから楽しみにしててね!」

「ふーん…… 」



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