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スワロー亭のこと(2)店舗つき物件に転居

ことのおこりは、転居先物件に備わっていた店舗スペースだった。

2014年、それまで借りていた住宅が、県道に歩道を設置する工事区間に引っかかって取り壊されることになった。入居時から時限のあることはわかっていたが、用地買収に時間がかかっていたようで着工は延び延びになっていた。それがいよいよ動きだしたらしかった。

退去を迫られ、押し出されたところてんが落ち着き先の器を求めるように、物件探しが始まった。移住関係の案件を扱う部署にいた役場の知人が、町内の空き物件をいくつか見つくろって案内してくださった。

自分たちは中心街からちょっと外れた静かな場所がいいと思っていたが、広さや間取り、物件のコンディションや価格の折り合いがなかなかつかない。小さい町ゆえということもあって、物件も豊富にあるわけではない。時間が限られている。早急に移らなければならない。今ある物件のなかで決めるしかない。

そうした事情を背負ったうえで、いくつかあった候補から最終的に決めたのが、町のほぼ真ん中にある、畑つきの戸建て物件だった。立地があまりにも真ん中すぎることはやや引っかかった。しかし選択肢が多くはないなかで、消去法でいくとどうしてもここになってしまう。

環境は悪くなかった。三方を中学校と飲食店と美術館に囲まれている。ということは、深夜に騒音に悩まされることは基本的にないと考えていいだろう。音の問題で数々の転居を経験してきた中島にとってそれは大きな安心材料だった。

築数十年は経っていると思われるが、新しさを自分たちは求めていない。建物のつくりはしっかりしている。間取りや広さも申し分ない。

そしておまけに、店舗スペースがついている。振り返ってみると、もしかしたらこれが大きな決め手の一つになっていたのかもしれない。

「ここで、なにか、できる……。」

用途のはっきりしない空間に惹かれる嗜好をもっていた二人ともが、12畳分ほどのその空間に、なにかしらムラムラきていた。

(燕游舎・中島)



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