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スワロー亭のこと(7)1日限定プレオープン

2015年7月12日、ホームセンターでペンキとローラーを購入。翌日に土間部分の壁塗りを開始し、買い足しながら数日間かけて塗り終えた。

7月28日、前述の若きアーティストによる壁の穴あけ(笑)。

8月30日、奥田と中島で壁はがし作業。予想外に頑丈につくられており、見えない部分の丹念な仕事に、この住宅を建てた大工さんたちの誠実さを思う。

次いで壁の構造を外す工事。構造にさわる部分はさすがに素人では危険だと判断し、大工さんにお願いした。最小限の施行にとどめていただき、仕上げは奥田が担った。

9月21日、壁を外したことで店舗の一部となった6畳間部分に、ネット通販で取り寄せてあった壁紙を貼る。裏面全面にあらかじめ接着剤が塗布されている壁紙を、気泡が入らないように、また隙間が生じないように貼っていく。初めての経験だったが、思ったよりきれいに仕上がった。

10月8日、店舗部分の古い窓サッシを撤去、ペアガラスに付け替え。

「10月15日に1日だけ店を開けたい」と奥田が切り出したのは、そのころだっただろうか。

開店のタイミングがなかなかつかめない。なんでもいいからきっかけがほしい。その日は自分の誕生日である。それを思い切るための手がかりとしたい、という。

「急だなあ……」。このころ本2冊分の取材と原稿作成・編集を並行して進めていた中島は、それだけで張り詰めていた。制作期間は他のことに手をつけられないのが常。ノイズが混じると集中が途切れて仕事の進行がとどこおる。それは困る。

しかし、語り口はソフトながら奥田の決意は揺るがないようだった。

準備は順調に進んできている。すでに手許に届いて久しい古本も洋服も、出番を待っている。いずれ開店するのであれば、それがいつであっても問題はない。先送りにする理由は見当たらない。

10月15日に照準を合わせ、準備が始まった。店というにはあまりにわずかな古本を書棚に並べるだけのことだが、お客様を迎えるにあたり、動線や書棚の配置をどう組み立てたらよいのか、基本がわかっていないのでまったくの手探り。あっちこっちに棚を動かしながら、収まりのいい配置を模索する。

10月12日、急ごしらえの店舗看板を作った。ホームセンターで買ってきた端材に、彫刻刀でロゴを彫り、塗料を塗っただけの簡素なものだが、ここだけは中島も燃えた。燃えすぎて腕に筋肉痛が出た。

12畳分の土間と6畳分の小上がり。それだけのささやかな店舗スペースに、手持ちの本を全部並べても隙間だらけ。小上がり部分に机と椅子を置き、レジ台にした。

そんな状態だったが、10月15日、店を開けた。開店時間は12時から17時までの5時間。

告知には、あまり力を入れていなかった。奥田も中島も、どこかにまだ気恥ずかしさのようなものがあったのかもしれない。ごく身近な友人知人にだけ「もしも都合がよかったら」とそーっと声をかけた。

思っていた以上に、訪ねてくださる人たちがいた。なかには祝いの品を届けてくださる人も。もてなしらしいもてなしもできないが、「せめて」とお茶を1杯めしあがっていただいた。

わずかな蔵書ではあったが、それでも訪れた人たちが、書棚を端から端まで眺めてくださる。目にとまる本があれば手にとって、ページをめくる。いち消費者として書店へ行けば、ふつうに目にしている人々の姿を、店の運営者という立場で初めて見た日だった。手にした1冊の本に見入る人の背中に、味わったことのない感情がこみあげた。

長いような短いような、不思議な5時間だった。

2012年にこの町へ越してすぐ、奥田と中島は「小布施まちづくり委員会」の「環境を考える部会(通称環境部会)」に参加しはじめた。スワロー亭初オープンのこの日は、月に一度の環境部会の日でもあった。店を閉めたあと、部会に参加したのだろうか。記憶は定かでないが、部会開始の1時間前に店を閉めているところから察するに、おそらく出席したものと思われる。初の古本屋オープン日。閉店と同時に打ち上げに繰り出してもおかしくないのにと今なら思ってしまうが、妙なところで律儀な燕游舎。

「古書のセレクトショップ『スワロー亭』、2015年10月15日に半日間だけプレオープンいたしました。ご来店くださったみなさま、ありがとうございました! みなさまの声を取り入れながら、ジワジワと開いてまいります。よろしくおねがいいたします。次回開店日時が決まりましたら、ご案内させていただきます。」

この日、SNSの「燕游舎・スワロー亭」ページには、だいぶフラットなテイストで投稿をしている。やっぱり気恥ずかしかったのか? うれしはずかし、といったところか。
(燕游舎・中島)

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