ドグラ・マグラとの闘い〜三度の敗北を越えて〜

諸君は『ドグラ・マグラ』なる奇怪なタイトルの文学作品をご存知だろうか。
俗に言う日本三大奇書の一つであり、「読むと精神に異常をきたす」と言う触れ込みで、そこそこ有名な小説である。

この作品が「読むと精神に異常をきたす」とまで言われている所以は、おそらくその圧倒的な読みにくさによるものではないかと思う。
途中で挿入される論文や、ある事件に関する供述調書などが約半分を占めるうえに、文体の古さもあってとにかくコイツらが厄介だ。
挫折した読者の大半はこのボスラッシュが原因だろう。
私自身、このパートを読む苦痛に耐えかねて三回の敗北を喫した。

最初に私がこの作品と出会ったのは、6年くらい前になるのではないだろうか。
タイトルをどこで知ったかは覚えていないが、「読むと精神に異常をきたす」だとか「奇書」という属性に惹かれて古本屋でこの本を手に取ったことは確かだ。

刊行された時期はあらかじめ調べていたため、それ相応の覚悟を持ってこの本に臨んだのだが、上下分冊になっているこの本の下巻には、会計時以降触れることは無かった。
それから3年ほどは実家の部屋の本棚の奥深くに封印されることとなった。

次の戦いは病院で行われた。
金に目が眩んで治験へと参加した私は、数日間静かに自由に過ごすことができるということで、これは良い機会だと『ドグラ・マグラ』の読破を目標に病院へと足を運んだ。

結果は分かりきっているとは思うが当然挫折、気づいたら文庫本は綺麗に閉じられた状態で机の上に鎮座し、私はipadで動画を見ていた。
文庫本二冊ぶん荷物が重くなったに過ぎなかった。

三度目の戦いは昨年くらいに電車の中で勃発した。
ちょうどその頃自分の中で「移動中に本を読もうキャンペーン」が開催されたこともあり、ミステリを中心に電車の中で本を読む習慣が定着しつつあった。

何冊目かを読み終え、さて次は何を読もうかと考えあぐねていたところ、そういえば”アイツ”がいたなとこの本の存在が頭をよぎった。
この本と三度相対するには、以前二度も挫折したという事実が重くのしかかってくる。

しかし、もはやこの本はいずれ私が乗り越えなければならない障壁とかしているのも確かだった。
加えて、読み終えていない本が未だに手元にあるというのも少し気持ち悪かったので、私は電車でこの本を読み始めた。

数日後、私は書店で別の本を購入し、それを読み始めた。
そして、ドグラマグラ上巻の100ページ付近には栞が挟まっていた。

またしてもの挫折だった。
今にして思えば、私の読書経験値が足りなかったのかもしれない。
推奨レベル未満でダンジョンに潜入した結果、低階層で追い返されてしまったのだ。

その後、いくつかの研鑽を重ねたのちに私は四度『ドグラ・マグラ』と向かい合う覚悟を決めた。
「移動中に本を読む」という習慣をほぼ完全に定着させた私は、朝の小田急線の車内でこの本を広げはじめたのであった。

改めてちゃんと読んでみると、一週間と少しあれば上下巻読破することはそう難しくはなかった。

理解できるかは別として、独特の文体には他には無い魅力があり、ストーリー自体も割と面白いもので、中盤の障害物ゾーンを越えると存外普通に読むことができた。

なんなら最初の『私』が目を覚ましてからキチガイ地獄外道祭文を読むまではかなり面白い。
自分自身が誰なのか、ここはどこなのか、何故ここにいるのか、何もかもがまっさらな状態から、少しずつ物語の世界の輪郭が掴めてくるのはやはり読書体験として良いものである。

まあそれも最終的には何が真実で何が与太なのか、その一切合切が煙に巻かれてよくわからなくなるわけだが。
しかしながら、本作の流れや雰囲気から考えても、作中で論理的解答を示されてもおいそれと信用できるものでもないので、ある意味この結末は納得がいくものでもある。

それなりには面白いし、他では味わえない独特の読書感があるので、少しでも興味があるなら是非作品を手にとって欲しい。

また、一応2回ほど映像化されており、特に1988年の実写版は評価が高いので、そちらを見るのもオススメである。視聴方法が限られており、私は見ていないが。
もう一つの2012年版のOVAはAmazon primeでも視聴出来るが、何とも言えない出来なのでオススメはしかねる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?