すぐ近くで、遠くを指さす

跡形もなく消える雪の迷いになって落下する
たったひとりきりでふたりになって
おたがいを忘れ合う旅に出る
ここは目を閉じたときの夜の卵管を震わせる冬だよ
雪が
ガラスの商店街を歌いながら走りぬけてくる

夜があるうちに
中を覗いてはいけない部屋の前を通り過ぎる
鍵を手に
雪の迷いの直下を
呼び鈴が必要なら呼び鈴を鳴らす冬だよ
友のことばの愛のように無条件に
すぐ近くで、遠くを指さす

曇天の手前をカラスが帰ってゆく夕方なので
今日あった出来事を亡き母に話しにゆく冬だよ
呼び鈴を鳴らさずに入っておいで
雪が降るはずだった、ふたりは、降るはずだった雪の中を駈け去るはずだった
傘はいらない


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