岸辺、目覚めの

視界のなかにないのに見えるものにとり囲まれている
愛の欲しさにすべての熱を奪われ
だれかの過去のようになつかしい水の底で
おれはねむりにつく
視界のなかにあって見えるのは塵だけだ

古い靴を持って靴屋に来いといわれた
はげしく窓を閉じる音が水面をわたった
目覚めるとはだかの女がおれの真上を泳いで去った
音が聞こえない耳を傾けて
じぶんの時間をすてながら
ひとりの女が去る永遠の時間のあいだにおれは線を越えてゆく

いつもじぶんの余白で眠りにおちた
話しかけると尻尾を振る呪われた犬とねむりにおちた
語りかけないことばによって思いは水位を上げ
その波が寄せる浜に液体となって打ちあげられる
聞こえない耳から語らない唇が遠ざかってゆく
去るものはいつもうつくしい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?