苦界浄土(石牟礼道子、講談社文庫)

石牟礼道子氏の、苦界浄土。
本書を傑作とせずして、他に傑作などあるだろうか。

石牟礼道子亡き今、本書は語り継がれなければならないだろう。

水俣病は長年、私の中で、恐怖の対象だった。「水俣病」というおどろおどろしい響きの病があったという事実は学習していた。が、向き合う事は長年出来なかった。

水俣病に「再会」したのは、本書に出会った2006年の事だ。

これは水俣病の記録に見えるが、文学である。しかも幻想文学の様だ。その後、当時、主婦だった石牟礼さんは、注目を浴びて、小説家となられたようだ。

とりわけ、印象的な話は、「草の親」。

今でも、小学校に上がるのを楽しみにして、空っぽのランドセルを背負った女の子「ゆり」が、水俣の海の一望できる石畳の階段を降りていく後ろ姿が思い浮かぶ様である。
水俣病が無ければ。

水俣病は、惨禍である。
それは事実だ。

しかし、本書、苦界浄土によって救われたのは私自身ではないかとすら思う。


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