二十世紀旗手(太宰治、新潮文庫)
教科書に書けない「太宰治」。
太宰治の「二十世紀旗手」の文字を見て、そんなことを思った。
太宰治という作家の一般的な最大公約数的なイメージは、「『人間失格』を書いて、絶望して、自死に至った陰鬱な作家」だと思う。
本書は太宰治が本格的に「狂気に陥っていた」当時の作品集である。
太宰治の狂気を理解する極めて興味深い記述が「狂言の神」で描かれている。
「トオキイの音がふっと消えて、サイレントに変わった瞬間みたいに、しんとなって、ビロウドのうえを猫が歩いているような不思議な心地にさせられた。狂気の前兆にも思われ、か気持ちが険しくなったので、それでも、わざとゆっくりと立ち上がり、お勘定してもらって外に出た。」
私がこれを読んだ瞬間は、今でも覚えている。
高校の教室である。私は太宰治の本を鞄の中に忍ばせていて、休み時間にひたすら読んでいた。そんな時出会ったのがまさに本書である。
高校生が「狂気」だなんて、と笑われるかも知れないが、あまりにも太宰治の「狂気」の描写が的確だった。
私を太宰文学に傾倒せしめる契機となったのは実はこの「狂言の神」の一節である。
ただ、この一冊は「劇薬」になりかねない、危険な書だと思う。
教科書には載せられない世界だ。
自己責任で是非読んでいただきたい。
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