クライマーズハイ(横山秀夫、文春文庫)

クライマーズハイ読了。

優れた小説は映画を鑑賞しているように、そのイメージを喚起する。

御巣鷹山での墜落事故という重い題材だが、それを追う、主人公悠木を中心とした人間模様がどこか爽やかで、疾走するように物語が進む。

彫刻家が、彫刻を刻むように、まるで、短文を刻み込むように書かれている。

想像するに、横山秀夫氏の頭の中で作品のイメージが、あらかじめ完璧にできており、その目指す造形に向けて、ノミを振るうように書かれたのではないか。

本作では、終始、冷静沈着な悠木が、望月彩子の投稿を掲載した事で北関の社内で、波乱が起きる。

私は、この件では、アンチ悠木だ。

悠木ほどの、怜悧な人物なら、葛藤の末、没にするという結末もありえたと思う。

結局、悠木は、周囲の反対を押し切り、望月の投稿を採用する事で、北関社長の白河の怒りを買う。

こういう事を書くと、私が、望月彩子の正義に対して冷笑的な、あるいは、白河の気持ちもわかると言う権力主義的な見方をしているような錯覚に陥るのだが、そういう意図は微塵も無い。

竹を割ったように、冷徹に周囲を突き放しながら進む悠木への最大の試練が、この望月彩子の投稿を採用する事で生まれる。

私はこの箇所の解釈は、作者、横山秀夫氏によって、読者に委ねられたのだと思う。

実は本書を出版時(厳密には、群馬出身の知人に勧められた時)に読んだ時は、違和感なく、悠木の決断を是としていた。

この点に関しては、さらに考察したい所だが、一旦、本稿ではここまでとする。

#読書の秋2022

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