ハンナ・アーレント(矢野久美子、中公新書)

強い女性は魅力的である。

知性があり、魅力的な女性であれば、それだけで存在感を放つ。

ドイツの政治思想家、ハンナ・アーレント(1906-75)は私にとってそんな存在である。

アーレントについて知りたいので、「ハンナ・アーレント」(矢野久美子著)を手に取った。

彼女の思想に強い関心があり、彼女の著書や解説書は数冊ある。

ユダヤ人としてナチスの全体主義を批判した政治思想家というイメージで勝手に捉えていた。

しかし、ふと立ち止まって考える。

ナチスドイツ全盛期の時代(ざっくり1938年ごろ)の時代はアーレントは30過ぎである。

ヒトラー政権が1934年誕生であり、アーレント27歳。

ユダヤ人のホロコーストの噂が立ち始めるのが1940年代最初である。

私は、「勝手に」舌鋒鋭くナチ批判、全体主義批判をした思想家という印象を持っていたが、時系列的には、ナチス成立以前に彼女は、とっくに人格形成をし、哲学者としてのキャリアをスタートしている。

ゆえに、その人物像のかなりの部分は、後世の人が勝手に作った偶像ではないかと思う。

いきなりネガティヴな書き方になるが、あの悪名高き、ヒトラー像が歴史理解の妨げになっている。

既にあるイメージを排除するために、時代背景や、アーレントの年齢を当てはめながら、読む。

実は、本書もナチという言葉が出る。

無論、作業仮説として、ナチ前、ナチ後という枠組みで分類するアプローチは最もらしい。

しかし、ナチス時代は良かったという人も少なくない。経済政策が成功し、失業率が低く、治安が安定していた時代。

米国の保守系政治家フィッシュですら、全盛期のヒトラーに会ってみたかったと述べている。日本人の中にもヒトラーによる統治を哲人政治と見なす人もいる。

私は、ホロコーストありきで歴史を見ることに慣れすぎている。

一度、そうした前提を捨象して、歴史を見る事ができないか、最近模索している。

本書、「ハンナ・アーレント」を読むと、本書の著書、矢野氏は、かなり苦労されたのではないか、と思う。
「ナチ批判をした20世紀の女性政治哲学者」の生涯。

確かに魅力的である。

革命という言葉も、ナチス同様極めて危険な概念だ。事実、ソ連は第二次大戦の遥か後に崩壊した。







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