異形の王権(網野善彦、平凡社ライブラリー)

中世の日本。

汲めども尽きぬ泉のように歴史研究の対象として魅力的な題材だ。

特に、室町時代は、かねてより強烈な関心の対象であり続けてきた。

混沌、秩序の破壊と再生、権力者の群像、聖と俗の結節、勃発する戦闘…。

挙げて行けばキリがないのが中世日本だ。

何ともミステリアスな輝きに満ちた中世日本における大きな里程標が後醍醐天皇による建武の新政である。

本書ではその魅力が、実証研究から存分に描かれている。

表題作「異形の王権」は、網野氏の論考の一つであり、南北朝時代の発端たる後醍醐天皇に関する論考である。

歴史的な記述は史実の引用で、全編にわたって図も多く、歴史マニアには、堪らない一冊である。

強いて難を言えば、この時代の特徴かもしれないが、少しマルクス史観的なフレイバーがかかっているように思うので、そこは好みがあろう。

戯画的に単純化すると、権力者と民衆が対立しつつも、民衆は自由に行動し、時に政権を批判し、時には、一揆などの実力行動に出る、と。

個々の調査や分析を統一的に支配する、より高度な視座の存在があるという発想。草の根的な学問の融合により、人々はその高度な何かを認識するに至るという余韻。

そこにマルクス主義史観の影響を見出す方が居られても不自然ではない。

特に網野氏の考察には、本書が出版された当時の、マルクス主義をあきらめきれない、人文科学系に漂うフレイバーを感じる。
(無論、それはフレイバーなので、無視して一冊の歴史の本として、十分楽しめることは言うまでもない。)

一歴史ファンとして、建武の新政、後醍醐天皇、南北朝時代、特に中世日本研究は私にとってはライフワークに近い。

古代史や明治維新に惹かれる方がおられるように、中世日本は、本書の述べる「異形の」魅力を放っている。

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