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実体験を基にホラー小説を書いてみた。【 超短編小説 】 

「 不赦 」



なにしろ蒸し暑い夜だった。

タクシーのシートに汗の滲んだシャツの背中を預けた。

わたしのカノジョはハンディ扇風機で顔に風をあてている。

とある大きな公園の脇道にさしかかった時に、カノジョが言った。

「 そういえばさ、ミキコさん伝説話したっけ? 」

「 なにそれ? 」

「 十年以上前に、ミキコさんていう小二の女の子が車にはねられて死んだんだって。この公園に遊びに行く途中だったんだけど、なんか右足がね、前輪に巻き込まれてぐちゃぐちゃだったんだって 」

かわいそうだが、たまにきく交通事故だ。「 で? 」

「 この話を聞いた人は、夜寝てるとミキコさんに足を引っ張られるの 」

「 ずるくないか、そのオチ 」

「 でも大丈夫。足を引っ張られたら、ミキコさんごめんなさい。って謝れば許してくれるから 」

「 それって実際に足引っ張られて謝ったってこと? 」

「 うん 」何故か自慢げにカノジョは頷いた。

「 あほか 」

「 本当だって 」

カノジョはスマホに公園の名前と事故というワードをブツブツ呟きながら入力し始めた。

その時だった。

急ブレーキの音と共に、わたしたちの身体を前後にゆさぶりタクシーが停車した。

前を凝視したまま運転手が言った。「 いま女の子が 」

―― え?

覗き込んでみたけれど、路上にも脇の歩道にも誰もいなかった。

嬉しそうにカノジョが言った。「 やっぱり霊がいるんだよ 」

「 そんなわけないだろ。運転手さんも勘弁してよ 」

「 すみません。でも、その話、知ってますよ。事故も本当にあったみたいです 」

「 ほらー 」そう言ってスマホを鞄にしまい、カノジョは身を乗り出して言った。

「 運転手さんも足引っ張られました? 」

「 どうだったかな 」首を傾げてつぶやき、運転手はアクセルを踏んだ。

この夜はそれぞれの家に帰宅した。

実家暮らしのわたしの部屋は二階にあり、窓を開けると風通しがよく、よほどの熱帯夜でなければ扇風機さえ必要ない。

今夜も窓を半開きにして横になった。

酔いが疲れを引き出して、わたしはすぐに入眠した。

ベッドに身体が沈んでいくような深く深い、心地のいい眠りだった。

風が足を撫でた。意識の遠いところで、ひんやりとしたものをふくらはぎに感じた。

次の瞬間、右足に激痛がはしった。

なんてことはない、たまに起こるこむら返りだ。

わたしは寝ぼけながら、右足をかかえ、筋をのばした。

じきに痛みがおさまり、そのまま眠りに戻った。

翌朝、昨夜の話が頭をよぎったが、ただの偶然だと自分を鼻で笑った。

昼過ぎに職場でコンビニ弁当を食べていると、カノジョからラインがきた。

『 ミキコさんきた? 』

『 誰それ 』

そっけなく返信した。

直後、クレーム対応に追われ、その後のトークを読めなかった。

クレームは解決できないまま夜遅く帰宅の途についた。

帰りの電車でメッセージを開くと、例の事故を紹介する記事のリンクが貼ってあった。

少女の名前は書かれていなかったが、確かに事故は起きていた。道路に飛びだしタクシーにひかれたらしい。

霊体験の記事もあったが、どうでもいいのでスルーした。既読がつけばそれでいい。

それにしても、カノジョが怪奇的なことが好きだとは知らなかった。

『 あんたも好きね 』と送ると、おどけた顔したスタンプが返ってきた。

この夜は、仕事のトラブルが頭に残っていたせいで、なかなか寝付けなかった。寝がえりを何度も繰り返し、ようやく眠りについた。

しばらくして、前夜とおなじ激痛がした。

眠りが深くないので、意識が比較的しっかりしている。

冷静に足の筋をのばしたが、痛みが一向にひかない。

堪え切れずに右足を抱えてのたうち回った。

冷え切ったふくらはぎの位置がずれているのは、たまに起こすこむら返りと同じだ。普段なら、ここまで苦戦せずに和らぐのだけれど今夜はいくらやっても治らない。

それに、二日続けて足がつるなんて初めてだ……。

焦りが募り、おでこから汗がふき出た。

本音を言う。

怖くなった。

そして、「 ミキコさんごめんなさい 」と口にしていた。なぜ謝るのかもわからないまま二回つぶやいた。

すると、すっと痛みがひいた。

本当だったのか、偶然か、いずれにせよ安堵した。

うとうとし始めると、さきほどとは違う衝撃を感じた。

今度は右足が動かない。

捕まれて引っぱられるような、リアルな感触がした。

本当にミキコさんに引っぱられているのだろうか?

足元に目をやると、あの時の運転手がわたしの足をつかんでいた。

すがるような顔をして、落ちくぼんだ目でわたしを見つめている。

どうしてここにいるのだろう? 窓から入ってきたのだろうか? なんて言えば出ていくのだろう? それとも左足で顔を蹴とばしてやろうか、そんなことをして呪われないだろうか? 動転して思考がまとまらない。

すると、運転手は眉をひそめて言った。

「 あなたがうらやましい。謝ればいいんだから。私はいくら謝罪しても赦してもらえませんでした 」

―― え?

薄くチカラのない笑みを浮かべると、煙が空気に紛れるようにその姿を消した。

noteをはじめたら偶然この企画が目にはいって、随分と久しぶりに小説を書きました。

実体験を基に、かなり色をつけてみました。

ちょっとでも怖いと思ってもらえたら良しです!

エージロー

読んで下さってありがとうございました!

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