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ぼんどしあたー「とあるマンションの住人たち」

ぼんどしあたー さんのオムニバス企画「とあるマンションの住民たち」を観劇してきました。

ぼんどしあたーは、「劇団ぱんけーき」の佐藤さん、「演劇集団Rubbish」の根間さん、「舞台創作チーム サンリミット」の石川さんが組んでいるコラボレーションユニット。

今回の公演は、あるマンションの一室で繰り広げられるオムニバス形式の公演です。

セットは統一で、3部屋3階建てのマンションという体の設定で行われて、各階ごとのチーム制で30分くらいの作品が行われました。つまり全9団体、全部公演を見ると、インターバルを含んで7時間くらいという大マラソン!

自分は変則的ではあったものの、全作品を見ることができたのでおなか一杯です。

101号室「Moipa Mira(ミラミラ)」夢がさめた先でまた会えたら
声優になって共演することを夢見る二人の女性が同居している中で、お互いの差や現実と向き合っていく話。ミラミラさんたち自身が声優養成所からのユニットなので、色々な思いがありながらの作品だなと感じました。

僕は常々「夢は叶わない」と言っています。「夢は夢であり、叶えたいのであれば目標にして初めてスタートできる」これが自分の信念だからです。彼女たちにとって「夢からさめる」が「覚める」か「冷める」か、タイトルの意図が、シンプルかつ残酷に表現されてたなと思いました。時々過去のミラミラさんの作品を挟んでくるのもツボでした。
そんなミラミラさんは、YouTubeもやってるってよ!

102号室「劇団静火」a little haouse
妹を亡くした女性のもとに、母親の幽霊が現れて…というお話。自分もかつて、似たような作品を作ったことはあるのですが、家族の死に対する向き合い方がリアルで、舞台美術の設定にも沿っていたなと思いました。
セリフの端々に、ちょっとダークな要素があったりして、この家族のバックボーンは何なんだろうと興味深かったです。
まずもって、お母さんのだらしなさっぷりが良くて、いるいるこういう人!とうなずいてしまいました。
ラストで語られる妹の本音と、母親が残していく言葉、流れてくる三味線…実はなぞかけがあって。という遊び心あふれる作品でした。

なんでか知らないけど「砂の器」のビデオパッケージが頭に浮かんでしょうがなかった。

103号室「演劇集団Rubbish」内見希望します!
リアルな会話劇で定評がある(僕の中で)、ラビッシュさんが本気でコメディを作るとこうなるんだな!という作品でした。
新しい部屋を内見しに来た女性と不動産屋。そこにチャチャを入れる姉という構造で、たぶん近年の「変な家」とかを含めたオマージュもふんだんに入っていました。会話にってない会話っていうのが、コメディの醍醐味なんですが、強引すぎないテンポ感などは見事でした。いいなあ…コメディ…。FOX WORKSだって、コメディを主に創作する劇団…だったはずなのだが…!

ただね、ざっしーってなんだよ。ざっしーってなんだよ!
ざっしーってなんだよ!ずるいよ。
まあ、昔アゴラで観たとある舞台で、何の脈絡もなく謎のキャラで登場して場の空気かっさらっていった中屋敷典仁という役者さんもいるので(しかもゲストなので自分の劇団ではない)、それに比べたら優しい方か(なにが?)

201号室「劇団MUSES」七月の訪問者
親が再婚して同級生同士になった小学生が、VRゲームで遊んでいるうちに、謎の白い粉を発見してしまい…というお話。
途中で入ってくる警官の「大丈夫です、この白い粉は、ただの白い粉です」というセリフがパワーワード過ぎて「何を言っているんだ?」とツッコんでしまった。

世界観に入っていくのにちょっとだけ苦労したけど、役者さんの表現は豊かで、これからの新体制に期待したいと思いました。

あと、これは舞台上の都合でもあるんだけど、七夕の笹を土台の足にぶっさすシーンが「もとからこの家にあったのか!!」と。そこも笑いにできたかもしれないなーとか。

202号室「Another Life」月望
娘の家に遊びに来た父親と、娘の彼氏、娘の会話による物語。「月がきれいですね」がキーワードになって、要所要所で語られる。
彼氏彼女の自然な関係性とか、父親が奥さんにかける電話とか、奥行が見える作品でした。
奥さんはもしかしたら海外にいるのかな?とか、彼らの過去と未来を追いたくなる構成。最後に現れる指輪の意味とか、説明されないけど腑に落ちる瞬間もあり、各役者がそれぞれの置き所を理解してるのが好感でした。

作・演出を担当した太田さんは、創作が2本目くらいということですが、脚本の組立がすごくうまくなってるな。なんてちょっと偉そうなことも思ったり。今後の活動も楽しみなユニット。

203号室「劇団ぱんけーき」ハッピーエンドの作り方
寝る前にお話をせがむ妹と、読み聞かせをしてあげる兄。でも妹は話の流れに納得しなくて、勝手に作品を改変していく。今回は赤ずきんを勝手に変えていくという、所謂想像が表現されるタイプの舞台。
狼がどう見ても「爆チュー問題」にしか見えなかったり、謎の黒服が現れてジョン・ウィックやったり、猟師が藤原竜也なみに叫んだりと、楽しみ方満載の舞台でした。でも、ラストには結構ダークな真相が隠れてて。

いやーこういうの好きだなー!兄役の佐藤さんの実はちょっとヤバい目とか、終盤にちょっとだけ出てくる伏線のせりふとか。学生劇団出身だからこその自由さと、大人になってからの経験値がちゃんとつながった作品でした。

301号室「演劇工房メビウス」白菊の花束
夫を亡くした妻が、電話しながら夫の愚痴を言ったり、思い出話をしていくという物語。個人的にとても好きな作品でした。演じた片山るんさんの雰囲気も、感情の作り方も見事だったし、カーテンコール後に説明があったんですが、夫がどんな人だったのかというエピソードの表し方も自然で、見ごたえ十分な作品でした。
死は感情を揺らすには一番わかりやすいテーマなんですが、だからこそ扱いが難しくて、遺された側の人生の中に、居なくなった故人の面影をどれくらい醸し出せるかと、今生きている周りの人たちの存在をどう出せるかが気もだと思っています。この作品は、両方を見事に成立させていて、何度も反芻すると思います。

るんさんは小道具でもお世話になっているのですが、カーテンコール後に最近印象的な小道具は?と聞かれて

半分喰われた犬

とお答えになられて…(*'▽')
お願いしたやつ(私)と喰ったやつ(役者さん)が同じ空間にいるという面白さ。ちなみにその犬は、鴨江ヴンダーカンマーさんに展示されておりますのでぜひ!

302号室「劇団ストレイシープス」fractal
あるマンションの一室で、目を覚ますと、知らない男が倒れていて。自分の部屋であるはずなのに、次々と他の物語に巻き込まれていくという物語。
ストレイシープスさんの特色である身体表現と、演技の切り替えによる多層構造が魅力的でした。
タイトルがフラクタルという事であれば、フラクタル図形のように無限に展開していく構成がモチーフになっているのかなと。
改めて作品を思い返したときに、デイヴィッド・リンチの「ロスト・ハイウェイ」という映画を思い出して、自分の人生や生活を他の存在に侵されてい
く恐怖は、今の社会(特にSNS)の構造に似てるなと思いました。

ラストには、ガザモノローグをモチーフにした表現もあって、ストレイシープスさんの舞台では珍しく(失礼…!)幻想的な世界で終わったのも好感でした。

303号室「舞台製作チームサンリミット」海風を想像しながら
遠い未来、海がなくなった世界で、ドームに暮らしながら狂信的な団体におびえて暮らす、ある3人を描いた物語。
オープニングのタップダンス的な動きとか、様式的なセリフ回し。どこの国の誰とも言えない名前など、ポストディストピアを現した意欲作でした。
それぞれが護りたいものの為に感情をぶつける場面は、鬼気迫るものがありました。エンディングも、決してハッピーエンドではないというのがなんともいい具合にモヤらせてくれて、この先の彼らがどうなるのか気になるところです。ここまで設定をねりあげたのであれば、続編とか無いのかな。

最近個人的に「プリンタニア・ニッポン」という漫画にハマっていて、この漫画で描かれる「ほのぼのディストピア」な感じに通じるものがあってちょっとうれしかったです。

というわけで、ぼんどしあたーの皆さん。参加団体の皆さん。お疲れ様でした!

個人としては、やどりぎ座さん来訪のラストでした。その想いについてはまたべつに。


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