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制作が簡単なコンテンツほど、ロングテールでの消費傾向が強まる(音楽・映像・ゲームを比較)

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Spotifyにおける、三大メジャーレーベル(Universal, Sony, Warner)とMerlinを合わせたマーケットシェアは、2017年に87%だったものが2022年には75%まで下がっています。少しずつですがこのトレンドは続いていき、音楽業界ではロングテール(インディーズアーティスト)のシェアが伸びていくことが予想されます。

Music Business Worldwide

別の記事では、USで再生数Top10が占めるシェアが2017年は1.23%だったのが、2022年は0.425%になっています。Warner Musicでも、収益Top5のアーティストが売上に占める割合は、10年前は15%だったのが2022年は5%まで下がっています(Music Business Worldwide)。あらゆる角度からの統計が同じトレンドを示しており、音楽業界におけるロングテール化がますます加速していくのは間違い無いでしょう。

では、別のエンタメコンテンツではどうでしょうか?

ゲームの場合、モバイルに限って言えば上位10タイトルが占める売上の割合は17%で、21-1000位が65%を占めます(Data.ai)。それなりにロングテールな構造になっていますね。
映像の場合、YoutubeやTikTokなどUGCプラットフォームがロングテールなのは言わずもがなです。

このように、多くのエンタメコンテンツプラットフォームがロングテール化し、コンテンツの数がより重要な競争ファクターになっていっている中、NetflixやDisney+など、映像ストリーミング系は真逆を行っており、より質の高いコンテンツを集めようとしていますのは面白い事実です。Netflixは、この10年でコンテンツ数を7000から6000へ減らし、その分オリジナルコンテンツに投資しています。制作はもちろん、プロダクトやマーケもオリジナルコンテンツの視聴を増やす戦略をとっています。Disney+のコンテンツ数は、Prime Video, Netflix, HBO Max, Paramount+, Peacockに次ぐ6位です。それでも、会員数はNetflixに次ぐ二位で、差もどんどん縮まってきています(CULT MTL)。

INSIDER
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さて、この違いはどういった要因から生まれているのでしょうか?それは、ずばり「クリエーションのハードル」ではないかと考えます。クリエーションが楽であればあるほど、コンテンツの総数が増えていきます。同時に、クリエーションが楽なコンテンツは、容量が小さく消費にかかる時間も短くなりやすいです。そこにレコメンデーションエンジンによるお勧め機能が加わることで、各ユーザーが消費するコンテンツにばらつきが生じ、ロングテール化するというわけです。Amazonがロングテールで稼いでいるのは有名な事実ですが、それと全く同じ構造がエンタメコンテンツでも起こっているわけですね。

音楽の場合、毎日10万曲がストリーミングサービスにアップロードされており、Generative Musicもどんどん増えています。Tencentは、Generative Musicを実際に自社のストリーミングプラットフォームで配信して、それなりに再生されているといいます(MBW)。消費サイドでいうと、音楽ストリーミングサービスやTikTokの影響で曲が短尺化(5年で平均して20秒短くなっている)していたり(Quartz)、ストリーミングサービス自体がフィットネスなど生活の様々な場面に統合されていることもあり、聴く量は圧倒的に増えています。

モバイルゲームはGoogle Playに50万、App Storeに20万くらいあります。Unityがかなり浸透してきたのと、ノーコードでもゲームを作れるようになっているので、クリエーションのハードルは徐々に下がってきていると言えます。消費サイドも、AAA級ではなくカジュアルゲームを中心に需要も順調に成長しています(Data.ai)。カジュアルゲームなので、通信環境やデバイス環境が悪い途上国などでも安定して伸び続けることが予想されます。

Data.ai

YoutubeとTikTokは省略でいいでしょう。動画制作は小学生でもできるし、幼稚園児でもYoutubeで動画を見る時代です。

一方、NetflixやDisneyなど、ハリウッド級のタイトルを集めるストリーミングサービスは事情が全く別です。一本消費するのにかかる時間が他コンテンツより格段に長く、コンテンツを楽しむための集中力(アテンション)もより求められます。そのため、大手のスタジオであればあるほど、基本戦略として、時間と予算をかけて超高品質な作品を作るブロックバスター戦略をとらないといけません。実際、劇場映画は、「大きく投資してコストをかけた作品ほど興行がうまくいく」傾向があります。少し前のデータですが、2016年でいうと、Disneyはworldwideで16本公開し、約$10Bの興行収入を上げています。一方、その他の4大スタジオは真逆の成績にいなっています。例えば、Warnerは35本公開し、約$6B。Sonyは46本公開し、約$4Bです(Blockbusters)。予算をかけまくって作品の品質をあげないと、世界には通用しないということです。

全く同じことが、ストリーミングサービスにも言えるでしょう。劇場だろうがホームエンタメだろうが、コンテンツを楽しむために必要な時間とアテンションが、ゲーム・音楽・映像系SNSと比べると長いといえます。そして、そのような高品質なコンテンツを作ることができるプレイヤーは、現在も、そして今後も限られるでしょう。その意味で、プロ映像コンテンツ業界はレスロングテール化していくと考えられます。

以上、制作が簡単で消費量が多いコンテンツほど、ロングテール化しやすいという業界構造について解説しました。

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